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The Vikings in England. Settlement. Society and Culture [Medieval Scandinavia]


D. M. Hadley
The Vikings in England. Settlement. Society and Culture(Manchester Medieval Sources).
Manchester: Manchester UP, 2006, 298 p.

List of illustrations
Acknowledgement
List of abbreviations
Preface

1. The Scandinavian Settlement: the development of a debate
2. Anglo-Scandinavian political accommodation
3. Scandinavian rural settlement
4. Scandinavians in the urban environment
5. Churches and the Scandinavians: chaos, conversion and change
6. Burial practices: ethnicity, gender and social status
Epilogue

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Index

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ずいぶん待たされたが、日本から出る前日に届いた。飛行機の友としてかばんに詰め、読了。イギリスにおけるヴァイキングの影響を考えるにあたって、今後出発点となる研究書である。

著者は現在シェフィールド大学考古学部の講師。北部デーンローの社会構造研究で博士号を取得し、2001年にはここでも紹介した大変重要な論文集の編纂にあたった。その後、各媒体に実証論文を次から次へと発表し、その成果を増補してまとめたものが本書となる。
D. H. Hadley, The Northern Danelaw. Its Social Structure, c.800-1100. London: Leicester UP, 2000, 374 p.

イングランドにおけるヴァイキングの研究であるが、世間の関心とは裏腹に、これまでまとまったものは意外に少なかった。イギリス側の開拓者はなにをおいてもフランク・ステントンであるが、その後、ピーター・ソーヤーの研究書(1962)、そしてヘンリー・ロインのハンディな概観(1977 同名で内容の異なるものが1994年にもある)をのぞいては、歴史家の手になるものを見つけることは難しい。アングロサクソン史家であればだれもが必ず触れる問題ではあるが、多くの場合イギリス側からのアプローチである。もちろんそこには史料操作の難しさが横たわっている。そうこうする間に考古学者による研究が爆発的な伸びを見せ、ジュリアン・リチャードによる考古学的概論(1991 第二版2000)がある。装飾品、墓地、彫刻、人骨といった歴史家が必ずしもうまく扱うことのできないマテリアルから、同時代の死生観やジェンダー差異を引き出す考古学者の手法は、文献史学しか知らないものには大変刺激的である。もっとも、文献史学と考古学は本来的に不即不離の関係にあるはずで、そういった意味で双方の業績を救い上げる本書は、今後の研究の礎となるだろう。

本書の議論の中で個人的に深く関心を寄せているのは、貨幣の問題である。古銭学という一種骨董趣味的な領野を一般史の枠内につなぎとめるのが貨幣史である。この時代のイギリスであれば、フィリップ・グリースン、マイケル・ドリー、D・メトカーフや、現在ケンブリッジ大学フィッツウィリアム博物館に在職するマーク・ブラックバーンが中心的存在であろうか。日本でも戸上一による研究書がある。私は卒論では一種の経済政策を扱ったので、彼らの業績をずいぶん読んだ。が、学部生風情のいい加減な読みだったので、方法論上の注意点や問題の核心が何であったのか、ほとんど思い出せない。
戸上一『イングランド初期貨幣史の研究』(刀水書房 1992), iv+357頁

貨幣というのは、ただ富の蓄積手段というにとどまらず、権力の表象でもある。貨幣の表面には、多くの場合、支配者の肖像とラテン語によるマニフェストが彫琢されており、それを自らの支配圏内に流通させることで、支配者側への求心力を高めるというのが一般的な理解である。別にそれが間違っているわけではないが、ひとつずっと気になっていたことがある。それは貨幣製造人(moneyer)の存在である。彼らは上級権力から貨幣の打刻製造を請け負う存在であり、時としてその名前を貨幣に刻み付けた。アングロサクソン法にも彼らに言及する規定がいくつか残されており、行政上重要なポストであったことはわかる。しかし彼らの実態は良くわかっていないように思う。南に関しては、ロベルト・ロペッツの著名な論文があるにはあったが…。

これがヴァイキングと関連すると問題がより複雑化する。というのも、彼らはイングランドのデーンローにおいても貨幣を打刻する一方で、紀元千年前後より、北欧内でも貨幣の製造に着手する。その際、アングロサクソンの貨幣を流用することもあり、肖像モチーフを流用することもある。それがアングロサクソン王権が北欧というコンテクストの中でもつ特殊な位置のためなのか、それともただ肖像の掘り込まれた刻印を作成することができなかったからなのか…。北欧における貨幣史の大物はスチューレ・ボリーンであるが、彼が貨幣と権力の問題荷まで踏み込んでいたかというと心もとない。また、たしかパメラ・ナイチンゲールだったと思うが、紀元千年前後に北ヨーロッパの貨幣の金属含有量だったかなんだったかが、統一されていただかなんだかという議論もあった。

ひょっとすると以上のような疑問は貨幣史の中でもすでに解決済みであるのかもしれないが、私が追う限りの研究では言及すらされることがない。したがって(というのもおかしいが)、その問題を私は失念しかけていた。このハドリの研究書でしばしば貨幣について論及されていたために、ながらく押し込まれていた問題意識が再度噴出してきたわけであるが、大変な問題である。本気でやるならば、まずは、現在入手しうる貨幣データのサーベイから手をつけねばならない。ということで、当面はできませんね。


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