SSブログ

キリスト教修道制の成立 [Medieval Spirituality]

キリスト教修道制の成立.jpg
戸田聡
キリスト教修道制の成立
創文社 2008年 xiii+193+79頁


序言
第1部
第1章 「最初の隠遁者テーバイのパウルス」は実在したか?
第2章 『アントニウス伝』の史料価値をめぐって
第3章 無学な修道者アントニオス? 初期修道制研究の一動向
第4章 キリスト教修道制の成立とマニ教 エジプトとシリアの場合
第5章 エジプトにおけるキリスト教修道制の成立をめぐる覚書
第6章 ローマ期エジプトにおけるキリスト教の普及をめぐって
第2部
第1章 『師父たちの金言』とポントスのエウアグリオス
第2章 古代末期におけるキリスト教修道制の成立
第3章 キリスト教修道制の成立をめぐる諸論点の詳論
補論 初期修道制と「主知主義」
第1章 グノーシス主義と修道制
第2章 なぜエウアグリオスは秘教的だったか?

あとがき

文献略号表
索引(研究者人名/事項等)

* * * * * * * * * *

新幹線の往復で読了。タイトルからしてピーター・ブラウンの向こうを張る書きっぷりかと思いきや、修道士のような禁欲的な学術書であった。文章のそっけなさとシックな装丁がいかにも創文社の好みである。

タイトルそのままであるように、4世紀における修道制の成立という、キリスト教世界においてきわめて大きな問題を対象とする。全編を通じた分析は、研究史の整理、問題点の指摘、史料による再確認をくりかえす、オーソドックスな手法。解答にいたる筆者の思考プロセスはすべて開陳されているので、それに見解に賛同するにせよ疑義を呈するにせよ、容易である。主として『アントニウス伝』という最初の聖人伝を分析対象としているが、結論として、著者は、修道制の成立にとって最も大切な要素として、1)殉教に代わる個人的救済の追及と2)名声の追求の二つをあげる。修道「制」というくらいだから、私は制度的問題にうつるのかとおもったら、その心理的結論に驚いた。

キリスト教史家ゆえの禁欲だろうか。私のような一般史家は、アントニオス自身が生き、『アントニオス伝』が生み出されたそのコンテクスト、さらに地中海東岸のある特定の地域のもつ政治的・宗教的・文化的特異性にどうしても関心を引かれるが、それは著者にとっては一つフェーズが上の問題であるのかもしれない。引用されている文献も、ブラウン以来の英米系の古代末期研究者のものではなく、より文献学的なものが多数を占めていた。うーん。


共通テーマ:学問

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。