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中世ヨーロッパの教会と民衆の世界 [Sources in Latin]

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野口洋二
中世ヨーロッパの教会と民衆の世界 ブルカルドゥスの贖罪規定をつうじて
早稲田大学出版部 2009年 179頁

はじめに
第1章 新しい贖罪規定の出現とその展開
第2章 ブルカルドゥスの『教令集』と贖罪規定「矯正者・医者」
第3章 贖罪の方法・期間および代償方法
第4章 中世における民衆の世界
むすび


試訳:ブルカルドゥス『教令集』第19巻「償いについて」第1-5章

あとがき

* * * * * * * * * *

小著だが重要。何が重要かというと、「試訳」部分。民衆史研究では必ず引用されるウォルムスのブルカルドゥスによる『教令集』のうち、贖罪規定部分の訳が掲載されているからである。

贖罪規定書とは、罪を犯した人間に対し、その罪の償い方を定めた聖職者用ハンドブックである。とても具体的な内容をもっているので、グレーヴィチもシュミットもつかっている。彼らの研究を翻案した阿部謹也によって日本でも知られるようになった。阿部の教え子の滝澤秀雄が何本か論文を書いていた。民衆文化の宝庫と言われるが、むしろ性文化の宝庫。ここではあえて引用しないが、まあその中身のすごいこと。ブルカルドゥスは何を考えて、こんな微に入り細を穿つ規定をまとめたのだろうか。男女間に対する規定より男性同士に対する規定のほうがより具体的で、ナニがアレである。さすがホモセクシャルな空間で生きる司教。講義で使えんわ。関心のある人は買って読んでください。

なお贖罪研究は、野口が論じたものよりも現在ははるかに進展している。オランダのマイケ・デ・ヨングがその筆頭であり、「Early Medieval Europe」誌でも特集が組まれた。近年の傾向は、民衆世界をのぞき見るといったナイーブなものではなく、初期中世の公私関係であるとか、支配者にとっての贖罪の機能であるとかいったものになっているように感じる。

大学出版局というのも増えてきた。かつて目立っていたのは東大と法政であったが、最近、慶應と京大が勢いをつけている。早稲田、九州、北海道はコンスタントにものをだし、大阪や東北はこれから。先ほど、東京外大も出版部を設けると発表があった。私見では、刊行された本の内容と作本双方において最もクオリティが高いのは、橘宗吾をかかえる名古屋大学出版会である。編集者自ら紀要で実力ある書き手を探し、その出身校に関わらず原稿を依頼するという、「あたりまえ」のことをやっているから。

ところで「試訳」ってなんですかね。訳なんてすべて「試訳」だと思うけど。

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