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中世の森の中で [Classics in History]

中世の森の中で.jpg
堀米庸三編
中世の森の中で(生活の世界歴史6)
河出書房新社 1975年 353+vi頁

プロローグ 自然と時間の観念(木村尚三郎)
市民の一日、農民の一年(木村)
攻撃と防禦の構造(渡邉昌美)
城をめぐる生活(渡邉)
神の掟と現世の掟(渡邉)
正統と異端の接線(渡邉)
「知」の王国(堀越孝一)
抒情の発見(堀越)
エピローグ パリ一市民の日記(堀越)

参考文献
索引

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掃除中にでてきた。奥付をめくる。初版が1975年10月20日。編者である堀米は同年12月22日に62才でこの世を去っている。

本書は、木村尚三郎、渡邉昌美、堀越孝一という堀米の高弟三人が、分担して筆をとった中世の日常生活史である。アシェット社の有名な叢書に「La vie quotidienne」というのがある。それを模して準備されたシリーズの一冊。私の手元にあるのは単行本であるが、文庫版は今でも入手できる。

十年以上前に読んだはずだが、内容を忘れていた。古色蒼然たる中世像かと思ってページを繰ったが、それが間違いであることはすぐにわかった。最後の旧制高校世代らしい骨太の文章、豊富かつ適切な史料引用、近代世界や日本の事例との自由な往還…。わかりやすい言葉で中世世界を甦らせる、一般向けの文章のお手本のようである。とりわけ渡邉昌美の担当部分がよい。

本書は日本における社会史のはしりである。岩波のシリーズもまた社会史を標榜する。でも読後感はぜんぜんちがう。本書のタイトルにもあるように、きらびやかなアナール派の中世史が導入される前、中世は森の世界であり、城の世界であり、信仰の世界であった。それに対し岩波のシリーズでは、農村ではなく都市に、農業ではなく商業に、農民ではなく商人や職人により大きな比重が置かれている。その違いは編者の趣味ということもあろうが、この30年の日本社会の関心の変化を反映してのことかもしれない。…でも中世ヨーロッパの人口の9割は農民なんだよね。農村史の人がいなくなってもいいのかな。

堀米はドイツ中世史だが、高弟はいずれもフランス中世史。二宮宏之や樺山紘一がアナール派を派手に喧伝する前だけど、堀米の弟子たちにはフランス中世史のほうが魅力的に映っていたのかもしれない。

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