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北欧神話 [Medieval Scandinavia]

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H・R・エリス・デヴィッドソン(米原まり子・一井知子訳)
北欧神話
青土社 1992年 307+xi頁

はじめに
1.神々の到来
2.オーディンの崇拝
3.天空の神
4.大地の神々
5.神々の家族
6.神々の世界
7.キリスト教の到来

訳者あとがき
北欧神話関連地図
索引

H. R. Ellis Davidson
Scandinavian mythology
London: Littlehampton Book Services 1969

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わたしは北欧には関心があるが、北欧神話にはまったくといっていいほど関心がない。昔、聖闘士星矢で、テレビオリジナルのアスガルド編というのがあって、それが記憶に残っているという程度である。日本の北欧好きはイコール北欧神話好きなので、わたしは北欧が好きではないということになる。講義の準備で必要となったので、購入して十数年、初めて開いてみた。予想に反して面白かった。

本書は北欧学者による学術書である。エリス=デヴィッドソンは『デーン人の事績』前半部の英訳者として著名だが、何が狭い意味での専門なのかはよく知らない。英国にはターヴィユ=ピーターという神話学者もおり、ジャン・デ・フリースと並ぶ神話研究の大家である。彼の主著の翻訳をするだのしないだのという話が聞こえてきたこともあったが、どうなっているのでしょう。

デヴィッドソンにはもう一つ翻訳がある。「スカンジナヴィアの宇宙論」C・ブラッカー/M・ローウェ編『古代の宇宙論』(海鳴社 1976年)173-202頁で、こちらも読み応えはある。

日本語で読める北欧神話研究書にはもう一冊ある。フォルケ・ストレム(菅原邦城訳)『古代北欧の宗教と神話』(人文書院 1982年)。エリス=デヴィッドソンが神話学者のアプローチであるのに対し、ストレムは宗教史家である。つまり後者は、神話の理解に時間軸が入っている。デュメジルの影響で神話を構造主義的に理解するやり方が流行った。日本で神話研究云々といっている人は、ほとんどその流れである。残念ながらこのような理解は、歴史家にはまるで役に立たない。とりわけ北欧神話はゲルマン神話からの分派であり、民族移動期を境に現在のかたちになった。少なくとも人格豊かな神々が繰り広げる北欧神話は歴史的構築物である。太古の昔からあったと勘違いをしている人が多いと思うが、それは学問的に間違いである。

北欧神話のソースとして主たるものは三つ。一つは詩エッダ、もう一つは散文エッダ、そして『デーン人の事績』である。もちろんこの三つ以外にも、北欧の史料のいたるところに断片的な情報は出てくる。いずれにせよ、神話理解のためには、史料の性格をよく知らねばならない。

アマゾンに3件書評が載っていた。2件は「読みにくい」とある。私などからすれば大変読みやすいのだが。本書の訳を学者翻訳とは言わないと思うが、これで読みにくければ、学術書の翻訳など何も読めないだろう。なお、本書の北欧語表記は、よいと思うところもあればあれと思うところもある。途中何度も「フランクの小箱」というのが出てくる。これは本書に限らず、中世史のプロでも間違えているのをたまに見る。7世紀(たしかにフランク時代ではある(笑))の「Franks casket」のことで、「フランクスの小箱」が正しい。フランクスとはこの小箱の持ち主であったフランクス卿のこと。

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