Dictionnaire historique de la papauté [Reference & Dictionary]
Philippe Levillain ed.
Dictionnaire historique de la papauté
Paris: Fayard 1994, 1759 p.
非常に有益な事典。教皇庁に関わる問題はほとんどすべての教会にかかわる問題であるため、教会史事典としても役に立つ。執筆者は一流、ページ数もあるので一つの項目に割かれる紙幅も十分、参考文献も充実している。
講義の準備で「異端」と「異端審問」を調べようと思って開いたのだが、項目執筆者の名前を見てびっくりした、オリヴィエ・ギヨジャナンである。古文書学校の教授で中世盛期の法制史が専門だと思っていたので。説明の最初に「異端審問は何をおいてもまず法的問題である」とあったので、納得した。日本で異端や異端審問は、「迫害された」側に立った研究がほとんどであり、「迫害した」側つまり教皇庁・教会・修道会側の研究は皆無に等しい。しかしシトー会、フランシスコ会、ドミニコ会は、教皇庁と深いつながりを持ちながら、人々の中に入り込んで対異端説教を積極的に行い、大学で異端論駁を講じ、教皇庁で対異端勅書や禁書目録を準備し、教会裁判所で異端審問官という行政官僚となった。以前からずっと考えていることではあるが、わたしは教会史や修道院の専門家ではないので、だれかきちんと学を修めた人に教えを請いたい。
ローマ司教座が教皇庁である。古代のローマ司教座など5大司教座の一つに過ぎず、初期中世の教皇庁など力なき地方政体の一つに過ぎない。カロリング期にはカール大帝に嫌がられながら皇帝冠を戴冠させ、10世紀は教皇を家門職としたローマ都市貴族のトゥクスクルム家によるネポティズムが蔓延する。カトリック史家は絶対そのような理解はせず、ぺテロによる成立当初から(ペテロがそのような認識をしていたかどうかはもちろん怪しい)、当時ありもしない首位権を教皇庁に仮託し、13世紀以降のそれがもっていたような立派な権威と組織があったかのように描く傾向がある。それ、おかしいから。そういったこともあって、たとえばこれのような、歴史家による教皇庁研究の翻訳が欲しい。最近上智の『新カトリック大事典』が完結したようだが、歴史家にどれくらい役に立つものとなっているだろうか。
この事典はずいぶん昔に大枚をはたいて購入したが、先ほどアラパージュを見ると、第二版が定価の半額50ユーロで売っていた。初版が出てずいぶんたったし仕方ないのだが、きいくやしい。内容はそれほど変わっていないと信じたい。