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メロヴィング朝 [Early Middle Ages]

メロヴィング朝.jpg
レジーヌ・ル・ジャン(加納修訳)
メロヴィング朝(文庫クセジュ939)
白水社 2009年 143+v頁

序章 メロヴィング期の歴史を組み立てること
第1章 メロヴィング朝とフランク王国
第2章 権力と社会
第3章 教会とキリスト教の浸透
第4章 生き残ること、生産すること、交換すること
第5章 個人と集団形成
結論 メロヴィング朝の記憶

訳者あとがき
メロヴィング朝系図
参考文献

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日本語で読める唯一のメロヴィング朝概観。もちろん日本には優秀なメロヴィング朝研究者もいるが、個人でかつ十分な紙幅をもってメロヴィング朝を概観したものはいない。もっとも長いものでも、『フランス史』に収められた佐藤彰一の概観か、もしくはミッタイスの『ドイツ法制史概説』であろうか。そのため本書はとりわけ初学者(といっても中世史について無知だと厳しい)にとって役に立つ。

著者は現在パリ第1大学の教授。去る3月に来日し、ドゥオーダに関する研究を口頭報告した(なおこのドゥオーダに関しては岩村清太による翻訳予定がある)。専門は家族史といってよいだろう。それも人類学の知見を十分に吸収した家族史である。彼女がこれまで蓄積してきた考察は、この短い著書の中にも十分に生かされている。とりわけ第5章であり、そこがもっともオリジナリティが高いように私には思える。

フランク王国と一口に言うが、メロヴィング朝とカロリング朝は大きく異なる。ルジャンは経済システムとキリスト教の浸透に力点を置き、メロヴィング期がそれ以前のフランク人国家から離脱し「固有のリズム」を獲得したことを論じる。それではメロヴィング国家とカロリング国家の「固有のリズム」はどのように違うのか、というところまでは述べていないけれども、これは大きな問題だろう。他方でカロリング国家も、ルートヴィヒ敬虔帝までの統一王国時代とそれ以降の後継王国時代では、そこに内包される「固有のリズム」は異なるはずである。私の知る限り、欧語でもゲルマン部族国家時代から西フランクと東フランクという後継国家の消滅までを通観した「フランク国家論」はないのだが…。

訳者による参考文献には挙げられていなかったが、日本語で読めるメロヴィング研究の古典としてティエリを出すなら、クーランジュも挙げておくべきか。翻訳は同じクセジュの『クローヴィス』、ルゴフの『もうひとつの中世のために』に引き続き三冊目。全部白水社。

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