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愛の往復書簡 [Literature & Philology]

愛の往復書簡.gif
アベラールとエロイーズ(沓掛良彦・横山安由美訳)
愛の往復書簡
岩波文庫 2009年 324頁

第一書簡 災厄の記 アベラールから友人への慰めの手紙(沓掛訳)
第二書簡 エロイーズからアベラールへ(横山訳)
第三書簡 アベラールからエロイーズへ(沓掛訳)
第四書簡 エロイーズからアベラールへ(横山訳)
第五書簡 アベラールからエロイーズへ(沓掛訳)
付録 尊者ピエールからエロイーズへの手紙(沓掛訳)

訳注
解説・補説
あとがき

* * * * * * * * * *

アベラールの書簡をオトコの沓掛が、エロイーズの書簡をオンナの横山が訳すという斬新な試み。よくもあの岩波がこのような翻訳形式を許したものである。

アベラールがどのような哲学を講じたのか私はよく知らないが、この書簡でも書きっぷりからしても、どうも鼻に付く人のようである。近くにいるとuzeeeeeという感じ。できる人同士というのはだいたいそりが合わないもので、民主党党首と同じく友愛の人聖ベルナールと仲がよろしくない。それは哲学と神学のあいだの緊張を反映しているともいえるし、ただただ性格が合わなかっただけのような気もする。歴史の研究で人格を云々するのはひとつご法度になっているが、本当は大事なことだろうと思う。

「ある晩のこと、私が自宅の奥まった部屋で静かに眠っておりましたとき、金を握らせて私の召使の一人を買収し、残酷極まりない、この上なく恥ずべき復讐を私に加えて、世人を驚愕させたのです。つまりは彼らは、彼らの不満を買った行為を私がなした、私の体の一部を切断したのでした」(39頁)。ここはアベラールの第一書簡「災厄の書」でもっとも著名な部分であるが、私が興味を持ったのはこれに続く記述である。「犯人はただちに逃走しましたが、そのうちの二人は捕らえられて、眼をくりぬかれ、性器を切り取られました」。ハンムラビ法典よろしき報復的体刑であるが、当時の刑法ではこのような規定があったのだろうか。実行犯の背後にいるエロイーズの伯父はどのような扱いとなるのだろうか。

私たちがこれまで馴染んできた往復書簡は、同じ岩波文庫に収められた畠中尚志によるもの。畠中はスピノザ研究者であり、必ずしも中世哲学や中世文学の専門家ではない。ただしこの戦前にあって、ラテン語から直接訳出する研究者の能力というのは尋常ではない。同じ岩波文庫に収められた長沢信寿による一連のアンセルムスの翻訳であるとか。

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