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ゴトランドの絵画石碑 [Medieval Sweden]

ゴトランドの絵画石碑.jpg
エーリック・ニレーン/ヤーン・ペーテル・ラム(岡崎晋訳)
ゴトランドの絵画石碑 古代北欧の文化
彩流社 1986年 235頁


凡例
はしがき
ゴトランドの絵画石碑
絵画とその背景
終わりとはじめ
絵画石碑の船の帆走
絵画石碑分類の大要
組み絵のしおり
ゴトランドの絵画石碑一覧表
ゴトランド絵画石碑の所在と教区図
典拠と文献の目録
訳者註
ゴトランドの古代
あとがき

Erik Nylén & Jan Peder Lamm
Bildstenar
Stockholm 1983

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ゴットランドは歴史的に非常に興味深い島である。ここに少し書いたので繰り返さないが、スウェーデンの一部でありながら、本土とは異なる歴史を積み重ねてきた。本書で紹介される絵画石碑もそのひとつである。何度も強調するが、島の歴史は重要である。別に私が島の出身だからそう言うわけではなく、私たちに伝えられている歴史的事実がそう言わしめるのである。島と船は不可分であり、船と権力も不可分である。

ゴットランドには民族移動期からヴァイキング時代にかけて、500近い絵画石碑がある。ヴァイキング時代のものはいわゆるルーン石碑であるが、7世紀以前のものはだいたい絵画のみが描かれる。この絵画が非常に興味深い。ゲルマン神話を描いたものもあれば、太陽をかたどったと思しき文様もある。スーネ・リンドクヴィストが2巻本のカタログにそのほとんどを写真で収めている。著者たちはこうした高度の絵画技術は本来北欧のものではなく、ローマ世界から移入されたものであろうと推測している。証明は困難であるが、人やものの交流があったことは確かなので、筆者の推測はまあ妥当であろうと思う。…イギリスとか北欧とか、文明世界の僻遠にあった地域ほど、ローマとのつながりを強調する傾向があるのはなんでだろうね。

本書は一般向けながらきちんとした専門家の手になる良書である。わたしは原著をもっていたが、この訳書がなかなか手に入らなかった。「日本の古本屋」でいくつかあったのでようやく購入できた次第である。なお訳者は、「本書が契機となって、今後類書が多く出版されるようになれば、訳者にはそれ以上の喜びはなく、それを願っている」とあるが、現状はお寒い限りである。きちんと北欧語と専門を収めた人間が出てきて欲しい。といっても日本に北欧研究のポストなどほどんどないんだけどね。かつて大学にあった教養課程の語学ポストは、良い翻訳を生み出すために用意されていたようなものである。

訳者の岡崎は1925年生まれ。もと東海大学教授。東海大学は旧大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)とともに、日本で北欧語の専門学科を持つ数少ない大学。訳業の中にある、おそらくスウェーデン語からの翻訳であろう『性の科学』や『高校生のための性知識』が時代を感じさせる。かつての北欧のイメージは、解放された性であったことの証左であろう。

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