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キリスト教の歴史 [Medieval History]

キリスト教の歴史.jpg
松本宣郎編
キリスト教の歴史1 初期キリスト教~宗教改革
山川出版社 2009年 284+59頁


序章 世界史のなかのキリスト教
第1章 キリスト教の成立(松本宣郎)
第2章 古代世界の衰退とキリスト教の進展(松本宣郎)
第3章 西ヨーロッパ世界の成立とキリスト教(印出忠夫)
第4章 発展する社会のなかの教会(印出忠夫)
第5章 宗教改革前夜の時代(森田安一)
第6章 宗教改革とその影響(森田安一)

付録

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世界各国史に引き続き、世界宗教史も新版に置き換えられつつある。

旧版がいまでも基本書として参考に出来る堅実な叙述だったので新版はそれとどう差別化するのかなと思っていたが、思ったよりはるかによい内容であった。教義史や教会制度史ではなく、社会史としての西方キリスト教を描こうとの試み。中世史にかかわるのはこの第1巻であるが、近世以降を扱う第2巻も読み応えがあった。かつてであれば叙述の中心に据えられていた修道院や教皇の存在は相対的に薄められ(逆に近代該当部では前面に押し出されている)、異端や小集団が生み出す社会運動がフィーチャーされている。

古代を執筆した松本はローマ史家であると同時にキリスト教史家でもある。『イタリア史』でもローマを担当している。二足のわらじのように見えるが、初期キリスト教史にローマ史の知識は不可欠であるし、ローマ社会史にとってキリスト教団の展開が与えたインパクトは小さくない。双方に眼を配るのが生産的なのであろう。欧米人では、とりわけ古代史家のなかには、一般史と美術史で同時に華々しい成果を挙げるものがいる。ローマ史のバンディネッリやギリシア史のカートリッジである。近代史で言えば、ギンズブルクもそうかもしれない。二つの方法論を同時に習得しなければならないので、準備に要求される時間も単純計算で二倍となる。

参考文献が日本語に限定されているのが気がかり(近代編は欧語も掲載)。参考文献は本文の内容をさらに詳しく知りたい人のための手引きであると思うが、それが日本語だけで可能であるとは思われない。実際、「Cambridge History of Christianiy」といった新しいシリーズもでているわけだし。もうひとつ気がかりなのは、初期教会の拡大の結果、アフリカ、アジア、インドといった地に根付いたキリスト教コロニーについてほとんど触れられていない点である。いわゆるプレスター・ジョンの伝説を生み出す素地は、こうした僻遠の地のキリスト教集団がいたためである。そう考えると、中世キリスト教世界の想像力と実際の活動にとって、外部コロニーの存在は、かなりの意義を与えるべきではないかという気が個人的にはする。ただしこれについてはひょっとすると第3巻の東方教会で扱うのかもしれない。


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