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The annals of St-Bertin [Sources in Latin]

The Annals of St-Bertin.jpg
Janet L. Nelson tr.
The Annals of St-Bertin(Manchester Medieval Sources Series)
Manchester: Machester UP 1998, xvi+267 p.

Preface
List of abbreviations
Genealogies and maps

Introduction
The text - The Annals of St-Bertin

Bibliography
Index

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初期中世史、とりわけカロリング期の研究者にとっては不可欠の叙述史料。『王国編年誌』に続くカロリング宮廷の正史であり、830年から882年までを扱う。一読すれば明らかなように、皇帝の施策を中心とした記述が過半を占めるが、カロリング宮廷が多文化世界であったことの証言でもある。フランク王国内であるドイツ、イタリア、フランスの各地域からのみならず、イベリア半島、北欧、東欧、ビザンツなどからも使者が来訪する。

日本の初期中世研究者は、どちらかといえば古典的な法制史料を用いた研究を好み、叙述史料を好んで使う者は少ない。それは叙述史料のはらむ解釈上の困難さゆえである。現地ヨーロッパにおいても、叙述史料のはらむイデオロギー性の問題については一般的にいたるところで論じられているが、たとえばこの『サンベルタン編年誌』のみを扱ったものは少ない。いかようにもやり方はあると思うが、なぜか少ない。わたしが見落としているだけだろうか。

文献学者が世界の研究者の標準となる校訂版を作成するのが究極の目的であるように、中世史家にとって主要史料の訳注を作成することはひとつの目標である。ネルソンは必ずしも大著ではない本書の準備に12年をかけたという。欧米には中世ラテン語の専門家がたくさんいるので、別に歴史家が手をつけなくともよいはずである。ネルソンはよほどこの史料に入れ込んでいたということだろうか。

日本の西洋中世史にとって不幸なことは、歴史史料の翻訳が非常に少ないことである。もちろんベーダとかトゥールのグレゴリウスだとか著名なものはある。しかしそれだけでは足りない。本当は『王国編年誌』、ラウル・グラベル、ボーザウのヘルモルト、ピウス2世といった中世ラテン語年代記の代表的作品の訳注があってしかるべきである。東洋学史料については平凡社の東洋文庫が、古典史料については京都大学学術出版会の西洋古典叢書があるのだから、西洋中世史料についても同様なものがあってもよい。一度に多数の読者を得ることは出来ないだろうが、長期的視野に立てば、相当の数の読者がついてくる。…採算度外視でやるところはないかね。


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