Le monde franc et les Vikings [Medieval Scandinavia]
Pierre Bauduin
Le monde franc et les Vikings, VIIIe-Xe siècle(L'évolution de l'humanité)
Paris: Albin Michel 2009, 460 p.
本書はこの十年で出版されたヴァイキングに関する最も重要な研究書のひとつになるでしょう。北欧史、初期中世史、フランス史の人間は購入して手元においておくべき。これまでウォレス・ハドリルの小著と断片的な論文しか刊行されていなかった大陸のヴァイキングに関するもっとも包括的な研究書である。
著者のボドワンは現在カン大学の中世史教授。専門はノルマンディ公領成立史。つまり、ポストにおいても専門においても、かのリュシアン・ミュッセの正統な後継者である。ノルマンディ公領の成立を扱った博士論文以外全くのノーマークであったが、あらためて調べると、クセジュにも『ヴァイキング』(2004年)を寄稿している。そのほかにもいくつかの重要な論文集にも関わっており、フランスのヴァイキング研究の第一人者であることがわかる。でも北欧語の文献が全く引用されていないところを見ると、北欧語はダメなのかもしれない。オランダ語はあるんだけどね。
早速クセジュも取り寄せて眼を通したが、これも近年の研究成果を反映してよく出来ている。かつてクセジュにはフレデリック・デュランという北欧現代文学の専門家による『ヴァイキング』が収められており、日本語にも翻訳された。『メロヴィング朝』や『大学の歴史』も新版になったし、クセジュも進化しているということである。
後書きから察するに本書は教授資格審査論文をもとにしている。中世史に関心のあるものは、本書が収められた叢書名を見て驚くはずである。「人類の進化」は、アルバン・ミシェル社の看板叢書であり、初期中世史のフェルディナン・ロット『古代世界の終焉と中世の始まり』や近世史のリュシアン・フェーヴル『大地と人類の進化』にくわえて、かのマルク・ブロック『封建社会』をそのシリーズの一冊としている。わたしが驚いたのは、本来この叢書は概論であるはずなのだが、上にも述べたように本書に限っては細緻な議論からなる論文である。もちろんボドワンの議論はフランス人らしく視野が広く、概論に納めるべき基本的な事実はすべて拾ってあるのだが…。叢書そのものの編集方針が変わったのだろうか。
フランク世界と北欧との交渉は誰もやらないと思って選んだテーマであったのだが、まさかこんな大物が突然本を出すとは…。もっとも史料操作や結論は必ずしも被っていないので助かった。ボルトンの『クヌート大王の帝国』のときもそうであったが、新出史料はまずありえないヴァイキングの歴史学的研究も日々進んでいる。日々進んでいると言うか、ときおきそれまでの研究を一時に塗り替える本が出るといったほうが正しいか。