グローバル・ヒストリー入門 [Historians & History]
水島司
グローバル・ヒストリー入門(世界史リブレット127)
山川出版社 2010年 90頁
グローバル・ヒストリーの登場
1.ヨーロッパとアジア
2.環境
3.移動と交易
4.地域と世界システム
5.グローバル・ヒストリーの意義と今後の展望
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今流行のグローバルヒストリーとはどのような射程をもった研究分野であるのかを簡潔に紹介する。代表的な研究の成果を要約しながらの概観であるので、大変勉強になった。10年前は、マクニールやウォーラーステインの名前は聞いても、グロバールヒストリーなんて言い方はなかった、と思う。
日本でグローバルヒストリー/世界史を唱えている研究者(グループ)は複数ある。私の知る限り、阪大世界史(桃木&秋田)、羽田正グループ、高山博、本書の著者の水島司である。一見同じものを目指しているように見えて差異があるのは、それぞれ異なる文脈からグローバルヒストリーに縫着したからであろう。桃木は近世ベトナム、秋田は近代イギリス、羽田は近世ペルシア、高山は中世シチリア、水島は近代インドである。それぞれモノグラフを準備する過程で国境で隔絶されたいわゆる一国史観に疑問を持ち、それぞれのフィールドを土台にしながらも、狭い意味での専門を越えて、グローバルヒストリーという新しい「大きな物語」へと歩を進めた。今回の「大きな物語」は、前回そうであったような単線的な発展史観ではなく、異なる基準や進度で稼動する地域間が相互連携を持ち、ひとつのシステムを作り上げている、とする見方である。
一読して感じたのは、グローバルヒストリーは結局近世以降の経済史なのかなということ。もちろん中世以前のものとしてアブー=ルゴドや家島彦一の研究もあるが、どうも副次的な価値しか認められていないような気がする。統計データがないとだめなのかね。ついでながら、なんでグローバルヒストリーの先駆者たるモリス・ロンバールの研究はいつも無視されんのかね。
それはともかく、グローバルヒストリーは、史料分析を基礎としたヒストリーよりフェーズをひとつ上げたことろに位置する学問である。歴史学に関心を持つものであればその成果を念頭に置くべきであろうが、若い人がことをせいて手を出すようなものではない。歴史学の工房で職人作業を経たのち、門戸をたたく分野である。先ほど上げた日本でグローバルヒストリーを先導する歴史家も、最初は細かい作業からはいったわけだし。