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ローマ帝国 [Medieval History]

ローマ帝国.jpg
クリストファー・ケリー(藤井崇訳/南川高志解説)
ローマ帝国
岩波書店 2010年 xii+201+10頁

謝辞
はじめに
翻訳にあたって
地図

1.征服
2.皇帝の権力
3.共犯
4.歴史をめぐる戦争
5.キリスト教徒をライオンに
6.ローマ人の生と死
7.ローマ再訪

21世紀にローマ帝国を読む(南川高志)
ローマ帝国をもっと知るための読書案内(南川高志)

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年表
文献案内

Christopher Kelly
The Roman Empire: A very short introduction
Oxford UP 2006

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オックスフォードの著名なシリーズの一冊。小著だからと言って馬鹿にしてはいけない。ローマ史の知識のない人には結構厳しい本である。テーマごとに区切ってあるので、まずは一般的な概論で王政から帝政の解体までのローマ史をざっと頭に入れておくのが前提である。

個人的に面白かったのは第4章と第7章。第4章はローマ人の歴史意識を、第7章はローマ帝国の受容史を扱う。いずれも日本では必ずしも深められてこなかった分野だけに、目新しい。中世史では以前より都市や修道院の起源神話に注目が集まってきたが、それはローマでも同じことであるらしい。受容史もまたローマに限らず流行のテーマである。

全編を通して長城で有名なハドリアヌスにしばしば言及される。2008年にはブリティッシュ・ミュージアムで展覧会があったらしいので、それにケリーが深く関与していたのかもしれない。本書では帝政期を中心に事例を引き出しているように見えるが、ケリーは後期ローマ帝国の行政制度の専門家として夙に知られる。当該時代の統治実践に関する単著もあるし、ケンブリッジ版古代史の後期ローマ帝国の巻に行政制度の概説も寄稿している。近年はフン族に関する本も出した。

南川による随分と長い解題がついている。そこに「古代人が残した記録を精査しながらも、歴史像をつくりあげるのは歴史家であり、かつ歴史家に影響を与えるその時代、社会である」とある。これはもちろんカーの『歴史とは何か』での歴史理解を踏まえての発言であろうが、そのような関心を持つならば、ぜひとも、なぜオーストラリア出身のケリーが、英国で教育を受け、そしてローマ世界を描き出すにいたったのか、逆に言えば、ケリーのローマ像には、どれほど「オーストラリア性」とでもいうべきものが投影されているのかを論じてほしかった。



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