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森と川 [Medieval History]

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池上俊一
森と川 歴史を潤す自然の恵み(世界史の鏡 環境9)
刀水書房 2010年 154頁

はじめに
第1章 森と川の法と権利
1 森は無主地か王の所有地か
2 封建社会の河川
3 森と川の交通

第2章 自然の恵みを集める仕事人たち
1 森の民
2 川の民
3 修道士と隠修士

第3章 森と川を守れ!
1 都市民にとっての森と水
2 神々と妖精の棲まう土地
3 エコロジー思想の源泉か?

おわりに
あとがき
参考文献

* * * * * * * * * *

先だって編訳『原典イタリア・ルネサンス人文主義』(名古屋大学出版会)を、2009年に『イタリア 建築の精神史』(山川出版社)を、2008年に『儀礼と象徴の中世』(岩波書店)を、2007年に『ヨーロッパ中世の宗教運動』(名古屋大学出版会)を刊行したにもかかわらず(翻訳は除く)、新著の登場です。…いつ寝てんだろうな。

中世における環境史の歴史は、部分的なものであれば、それなりにある。シャルル・イグネやクリス・ウィッカムが論じた森林開墾問題、とりわけパリやイタリア都市について蓄積のある都市衛生問題、ドレスタッドやヴェネチアで見られる海水の上昇(下降)問題。本書はそうした環境問題を包括的に論じ、中世的環境問題とは何かに答えようとしたもの。引用されている事例はふんだんにあるので、あれこれ考えをめぐらせることができる。高校世界史では、中世人は未知なる自然を征服しようと生活世界を広げたといったような説明を受けた気がするが、そうじゃないよ、と。近ごろよく聞く表現を使えば、自然と人間はインタラクティブであるという方向での整理である。

最後に紹介してあったピエトロ・ディ・クレッシェンツィの『農事論』は興味深い。現代人は農村=田舎=無知という図式からなかなか抜けきれないが、中世において農業技術というのは最先端の経験知であったはずである。農書そのものがまとめられるのは中世後期になってからのようであるが、デュビーの本などを紐解けば、中世盛期以前の段階でも、農村ではさまざまな技術革新がおこなわれていたことがわかる。また、日本でも西洋でも社経史はやや沈滞気味のように見えるが、こうした農書分析から見えてくるものは少なくないように思う。

出版社の方針なのかもしれないが、参考文献が邦語のみというのが気になった。いいように解釈すれば、邦語でも当該分野に関してそれなりの数の参照文献が出ているということになる。一般書だけではなく、山田雅彦、城戸照子、遠山茂樹、徳橋曜、渡邉裕一らの専門論文まで挙げてある。しかしだね、これはヨーロッパ史の本なのだから、欧語の最新の研究文献もきちんと紹介してほしいわけよ。本文では欧語文献に言及しているのだから、こちらとしてはもどかしい。

樺山紘一編「世界史の鏡」は全101冊予定。13世紀の百科全書家ボーヴェのヴィンケンティウスに倣ったのか。書き手はだいたい単著のある40台半ば以上。150ページ程度なので、山川の「世界史リブレット」よりは長く、各出版社の新書よりは短い。すぐ読める。


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