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Die Goten und ihre Geschichte [Early Middle Ages]

Die Goten und ihre Geschichte.jpg
Herwig Wolfram
Die Goten und ihre Geschichte
München: C.H. Beck 2001, 128 S.

Vorwort

Einleitung
Herkunft und Herkunftgeschichte
Die Goten und das Reich im 3. und 4. Jahrhundert
Das Tolosanische Reich(418-507)
Theoderich der Große(451-526)
Der Untergangdes italischen Ostgotenreichs(526/35-552/55)
Das spanische Reich der Westgoten(507/68-711/25)

Literatur- und Quellenverzeichnis
Abkürzbgsverzeichnis
Personenregiste

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講義で喋らねばならないので、手元においていたのがこれ。

著者のヴォルフラムは1934年生まれ。ウィーンのオーストリア歴史研究所に拠る初期中世民族史研究グループの領袖で、ドイツ語圏を代表する初期中世史家のひとり。証書学に足を踏み入れたものであれば誰もが手にする基本書(Intitulatio, 2 vols. Wien 1967-72)を編み、その後、ゴート人史(Die Goten. Von den Anfängen bis zur Mitte des sechsten Jahrhunderts, 4 Aufl, München: C.H. Beck, 2001)、オーストリア史(Österreichische Geschichte 378–907, Wien: Ueberreuter 1995)、民族移動期史(Das Reich und die Germanen. Zwischen Antike und Mittelalter, Berlin: Siedler 1990)の基本書を物す。なぜかコンラート2世の伝記もある。すでに名誉教授とはいえ、なお現役の大物である。

本書はドイツのクセジュ、ベック社のWissenシリーズの一冊。クセジュと同じく128頁(この頁数は印刷の関係でなんか意味があるのかね)である。2001年に第4版を重ねたゴート人通史は当該分野の基本書とはいえ、都合600ページを越える大著であり、専門家以外がおいそれと手を出せる代物ではない。ヴォルムラムの見解を知るには、その大著の要約版でもある本書を紐解くので十分である。

カッシオドルスの『ゴート人の歴史』(現物は散逸し、ヨルダネス『ゲティカ』に要約)に北欧(スカンザ)出身とあるゴート人は、いったん黒海沿岸沿いに定住し、中央アジアから西漸してきたフン人に押し戻されるかたちで、ドナウ川を越えてローマ帝国の版図に流れ込んできた。これがいわゆるゲルマン民族移動の端緒である。ゴート人のなかには、フンに吸収されるものもあり、黒海沿岸にとどまるものもあり、ローマに取り込まれるものもあり。最終的には東ゴート王国と西ゴート王国にわかれ、東ゴートはイタリアに、西ゴートは南フランスとイベリア半島に定住した。

ゴート人はゲルマン人の一派であるが、彼らはローマの遺産を十分に継承した。東ゴート王国の開祖であるテオドリックはコンスタンティノープルで育ち、首都ラヴェンナに数多くの教会とローマ風宮殿を建設、カッシオドルスやボエティウスといった人物をスタッフとして宮廷に採用し、ローマ文化の保護を図った。西ゴート王国は、当初西ローマ帝国と協力体制を敷いてカタラウヌムの戦いでフンを撃退し、イベリア半島に移動した後は、首都トレドでローマ法文化を花開かせ、セヴィーリャのイシドルスによるローマ文化復興の下地を作った。もちろん彼らの生活は戦士文化の側面も持ち、ただただローマの模倣者であったわけではない。構築主義者風に解釈するならば、600年という長い時間をかけて、ゴートはローマ帝国内でローマ文化を吸収し、それをもとに新生ゴート文化を生み出したわけである。

最初にゴート人は北欧出身と『ゲティカ』にあると記したが、これは事実ではない。考古学的発掘は、北欧にゴート人の痕跡を認めていない。しかしながら、中世から近世の歴史において、この『ゲティカ』の記述は、北欧人のアイデンティティの一部を形成した。自分たちはゴート人の末裔であり、ギリシア人やローマ人とは対抗する存在であると。

日本でゴート人の歴史といえば、以下の通り。

ヘルマン・シュライバー(岡淳訳)『ゴート族 ゲルマン民族大移動の原点』(佑学社 1979年)
松谷健二『東ゴート興亡史』(中央公論新社 2003年)(松岡正剛の書評あり)
鈴木康久『西ゴート王国の遺産 近代スペイン成立への歴史』(中公新書 1996年)(対象は西ゴートの「遺産」であって西ゴートそのものではない)
玉置さよ子『西ゴート王国の君主と法』(創研出版 1996年)

このなかで専門家といえるのは玉置のみである(ただし佐藤彰一による書評『史林』81巻1号(1998年)119-22頁も併読のこと)。ただ、シュライバーと松谷の本は、歴史家の手になるものではないとはいえ、ゴート人史の梗概をつかむのにはよい。ヴォルフラムを読む前に、この二冊でゴート人の政治過程に関する基本的な情報を整理するのがよい。

日本におけるゴート人の情報はこのような惨憺たる状況であるので、本当はこのヴォルフラムの小著は訳されてよいと思う。アマゾンドイツでの評は専門的過ぎるということであまりよろしくないが、旧世代のドイツ系学者に読みやすさとかそういったことを求めるほうが無理。これでちょうどよい。なおL・スプレイグ・ディ・キャンプ『闇よ落ちるなかれ』(早川文庫 1977年)という、東ゴート王国を題材とした歴史イフ小説もあるらしい。

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