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中国の印刷術 [Arts & Industry]

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T・F・カーター/L・C・グリドリッチ改訂(薮内清・石橋正子訳注)
中国の印刷術 その発明と西伝、2巻(東洋文庫315-16)
平凡社 1977年 xxxiv+1999 + ii+260+6頁

訳者序
序文
第二版への序文
トーマス・フランシス・カーター

第一部 中国における印刷術の背景
第1章 紙の発明
第2章 印章の使用
第3章 石碑からの摺拓
第4章 宗教と印刷に対する要求

第2部 中国における木版印刷
第5章 木版印刷、インキおよび印刷法の意味
第6章 木版印刷のはじまり
第7章 日本の称徳女帝とその百万塔陀羅尼
第8章 現存する最古の印刷書、868年の『金剛経』
第9章 馬道のもとでも儒教経典の印刷
第10章 中国木版印刷の最盛期
第11章 紙幣の印刷

第3部 木版印刷の西伝の経路
第12章 大シルク・ロードに沿う思想と商品の交流
第13章 中国からヨーロッパにいたる紙の千年の旅行
第14章 ウイグル・チュルク人の印刷
第15章 印刷術の障害となったイスラム
第16章 モンゴル帝国における中国とヨーロッパの接触
第17章 東西の十字路、ペルシア
第18章 十字軍時代におけるエジプトの木版印刷
第19章 印刷術の西伝におけるカルタ
第20章 織物の印刷
第21章 ヨーロッパにおける木版印刷術

第4部
第22章 中国における活字印刷の発明
第23章 朝鮮における活字の広範な使用
第24章 グーテンベルクの発明の系譜

年表 紙と印刷術 中国における発展のその西伝
参考文献
人名索引

T. F. Carter
The invention of printing in China and its spread westward.
1955

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三宮の古本屋をぶらぶらしていたときに見つけた。懐かしくて手に取り、そして買った。学部時代、教職単位の関係で東洋科学史の川原先生の講義をとったとき、それぞれの関心にしたがって報告をしろといわれたので、本書をまとめたのである。1990年代半ばは、ノートはもちろん、レポートも配布資料も手書きだった。

文化史のお手本のような本である。1955年の本なので、この分野では古典中の古典であろう。紙の歴史について詳しいわけではないが、本書でまとめられた内容のかなりの部分は、現在書き換えられているのではないかと思う。それでも、包括的であるため、出発点としての価値は損なわれていない、と思う。21章では、ヨーロッパにおける木版印刷についてまとめられている、流入は14世紀、当初は、カルタという遊戯品と宗教図像に用いられたらしい。グーテンベルクの活版印刷を準備したのは、この木版印刷である。なお訳者は第一級の科学史家である。

東洋文庫は日本の出版界が誇ってよい企画である。東洋学の原典訳注と古典的研究の復刻もしくは翻訳が、シリーズの主な構成である。個人的に収めてほしいものがある。原典であれば、13世紀から14世紀にかけて教皇庁やフランス王がモンゴルに派遣したフランシスコ会士らの記録、古典的研究であれば、バルトリド『モンゴル侵入以前のトルキスタン』とペリオ『教皇庁とモンゴル』である。いずれも東西交渉史研究にとっては基本中の基本書である。個人的に所有はしているが、西洋人の書いた東洋学の本は、地名や人名がよくわからないのである。東洋史家が訳注を施してくれないとつらい。

図版は蔡倫(50-121年)。後漢の宦官。かつて紙の発明者として名を馳せたが、今はその改良者という扱い。というのも、1996年に中国甘粛省から前漢時代の地図が書かれた紙が出土したからである。紀元前150年のものという。中国奥地から中央ユーラシアにかけては今後も掘ればいろいろなものが出てきそうである。

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