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イタリア古寺巡礼 フィレンツェ→アッシジ [Arts & Industry]

イタリア古寺巡礼(フィレンツェ→アッシジ).jpg
金沢百枝・小澤実
イタリア古寺巡礼 フィレンツェ→アッシジ
新潮社(とんぼの本) 126頁 1600円+税

はじめに 中世を照らした光

1.フィレンツェ 眺めのよい聖堂(サン・ミニアート・アル・モンテ聖堂)
2,ロメーナ ロマネスク日和(サン・ピエトロ教区聖堂)
3.ピサ 奇跡の広場(サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂)
4.シエナ 聖母に護られた町(サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂)
5.モンタルチーノ 簡素な楽園(サンタンティモ修道院聖堂)
6.マッサ・マリッティマ アヒルと魔女(サン・チェルボーネ大聖堂)
7.アンコーナ 東方の香り(サンタ・マリア修道院聖堂)
8.ジェンガ かくれ里の名作(サン・ヴィットーレ・アッレ・キウーゼ修道院聖堂)
9.フェレンティッロ のどかな渓谷(サン¥ピエトロ・イン・ヴァッレ修道院聖堂)
10.アッシジ 心洗われる中世美術の宝庫(サン・フランチェスコ聖堂)

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3月の朝陽に白壁が映えるアッシジはサン・フランチェスコ聖堂。空の青、聖堂の白、前庭の緑のトリコロールが読者を迎える本書は、ちょうど一年前に出たこちらの続刊。聖堂の数を10に絞る一方で、判型を若干大きくし、フードライターによる現地食の紹介を追加されたのが変更点。

ザ・イタリアといえばトスカナ。フィレンツェ、シエナ、ピサ、ルッカ。旅行会社や旅雑誌の定番である。本書は、そのトスカナ、隣接するウンブリア、そして日本ではほとんど知られていないマルケをあつかう。前著は古代末期からルネサンス初期までという時代幅を対象としたのに対し、本書は、これぞ中世という盛期中世の300年がお題。建築様式で言えば、ロマネスクからゴシックに移行するまさにその時期であるが、そうした単純なストーリーが当てはまるのは北フランスの話(そもそもこの移行論は北フランスの事例に基づいた解釈であるからあてはまるのは当たり前である)。聖堂というピンホールの穴から、イタリアの中世、そしてヨーロッパの中世を再解釈する。

前巻と同じく、美術史家は聖堂の中に入り込み、歴史家は聖堂を上から見下ろし、文章をしたためる。全体としてかわったなと思うのは、今回の中部イタリア編は、周辺の自然と聖堂との関係を強調している点だろうか。もちろん、前巻と同様に、本書もまた単なる中世イタリアの紹介ではなく、古代、ドイツ、地中海、東方との関係といったヨーロッパ世界の中のイタリアという観点で説明を試みている。しかし、聖堂というモノは、第一義的に、あくまでもそれが建つ現地のひとたちのためのものである。しかして立地特有の風土や文化との関係は、外部との関係以上に、聖堂の個性を規定する。とくにロマネスク教会は。

圧巻はやはり最後のアッシジのサン・フランチェスコ聖堂。フランチェスコ会の護り手ともいえる教皇グレゴリウス9世のもとで着手された聖堂建設は、聖フランチェスコという13世紀最大の人物をたたえるにふさわしく、同時代の建築や工芸の技術の粋をあつめて完成にいたった。本書には、描かれた時代順に、聖フランチェスコを描出した5人の画家の作品が収められている。比較してみると、それぞれの画家たちがフランチェスコをどのような人物としてみようとしていたのか、おぼろげながら浮かび上がってくる。必ずしもあたらしければいいというものでもない。

著者の一人が、10月8日(土)と11月12日(土)に朝日カルチャーセンター新宿教室で、本書の内容を掘り下げます。「中世の美をめぐる旅」(お申し込みはこちら

また、著者の一人に対するインタビューはこちら

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