Moines et guerriers [Medieval History]
Alain Demurger
Moines et guerriers. Les ordres reigieux-ilitaires au Moyen Âge(L'univers historique).
Paris: Seuii, 2010, 414 p.
Avant-props
Intruduction: ordres religieux-militaires, ordres du chevalierie, ordres de mérite
Première partie. Montée en puissance (XIe-XIIIe siècle)
1. Le contexte occidental et les croisades
2. La Terre sainte, berceau des ordres religieux-militaires
3. En péninsule Ibérique, des ordres militaires spécifiques
4. Du côté de la Baltique. Croisade missionnaire det ordres religieux-militaire
Deuxième partie: une institution originale de la chrétienté médiévale
5. Vivre selon une règle
6. Les hommes. Le recrutement
7. L'organisation des ordres
8. Les ordres religieux-militaires et la guerre
9. L'activité charitable des ordres militaires
10. Patrimoine, donations pieuses et colonisation
11. Spiritualité et culture des ordres religieux-militaires
12. Esprit de corps. Signes et symboles d'appartenance
Troisième partiè: Déclin, crise, adaptation?(XIVe-XVIe siècle)
13. Crise et difficultés (vers 1270-1330)
14. Les hispitaliers à Rhodes
15. La Prusse et la Livonie teutonique, 1390-1525
16. Les ordres militaires espagnols entre l'intrique et la soumission (XIVe-XVIe siècle)
17. Ordres ou confréries?
Conclusion
Abréviations
Notes
Bibliographie
Annexes
Index
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いわゆる三職分論によれば中世社会は「祈る人、戦う人、耕す人」に分かれていたが、騎士修道会は「祈りかつ戦う人」であり、もう少し踏み込んで言えば開墾者として「耕す人」でもあった。中世後期の歴史展開には欠かすことのできないそんな不思議な騎士修道会の概観。基本に忠実にテンプル、聖ヨハネ(ホスピタル)、ドイツという三大騎士修道会の歴史を軸に据える。過不足ない記述といい、地図、参考文献、インデックスの充実といい、このテーマの決定版だろう。
日本語で読める騎士修道会の概観としては橋口倫介『騎士団』が手頃であるが、テンプル騎士修道会と聖ヨハネ騎士修道会の二つしかあつかっていない。残り一つのドイツ騎士修道会の歴史は、阿部謹也『ドイツ中世後期の世界』が最も信頼できる。この二冊をあわせれば、確かに三大騎士修道会の歴史についての基本的な知識を得ることはできるが、それはドゥムルジェが提示したようなヨーロッパ史の中の騎士修道会という位置づけとは自ずと異なる。イングランドのデーンローだけみてもヴァイキングは語れませんよというのと同じ。
フランス人は本当に概観がうまい。近年では英語圏の歴史家がその任を受け継ぎつつあるが、フランスはコンスタントに特定テーマについての概観を出し続けている。たとえばフィリップ・ヴォルフ『中世末期の民衆運動』、ジャック・ヴェルジェ『ヨーロッパ中世末期の学識者』、ジェン・ファヴィエ『金と香辛料』(翻訳有り)、ベルナール・グネ『中世における歴史と歴史文化』、シャルル・イグネ『ドイツ植民と東欧世界の形成』(翻訳有り)、そして現在翻訳進行中のフィリップ・ドランジェ『ハンザ』など。ヌーベル・クリオに収められているドーエルト、ミュッセ、ジェニコ、グネ、エルスらの時代別概観もいずれもすばらしい。
ドイツ騎士修道会を扱う本書もそうかもしれないが、イグネ『ドイツ植民と東欧世界の形成』とドランジェ『ハンザ』は、原著フランス語にもかかわらず、当該分野の概観としておそらく今なおベストである。いずれもドイツ語圏を叙述の中心としているので、ドイツ人の手によってうまく概観されてしかるべきであると考えがちであるが、実際はそうではない。ドイツ人中世史家が情報を取捨選択しかつヨーロッパ全体の動きの中にある事象を位置づける作業が必ずしも得意ではなさそうだという理由の他に(フランス人は「文明」、ドイツ人は「文化」を強調したがる傾向がある)、おそらくナチスドイツ時代の生存圏問題がかかわっているように思われる。現在の東欧圏にドイツ騎士修道会やハンザが拡大し、ドイツ化を進めたというのはまごうかたなき歴史的事実であるが、同じ事を侵略者であったドイツ人に言われるのと、赤の他人であり同じドイツ人の被害者である(ように振る舞っている)フランス人に言われるのとでは、被害者感情という観点からおおいに異なる。
なお騎士修道会については、ドゥムルジェもかかわっている立派な歴史事典がある。
Nicole Bériou et Philippe Josserand ed., Prier et combattre : dictionnaire européen des ordres militaires au Moyen Âge, Paris:Fayard 2009, 1029 p.
仕事場になかったので図書館を通じて注文を出した。
著者の肩書きは名誉「准」教授。ドゥムルジェは著名な中世史家であり、「新中世フランス史」の第5巻の著者でもあるが、退職まで教授という肩書きは得ていなかったようである。教授資格論文としてのモノグラフがなかったせいかもしれない。審査要件などあってなきがごとしの日本と異なり、欧米での「教授」という肩書きは重い。