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Empires of Faith [Early Middle Ages]

Empires of faith.jpg
Peter Sarris
Empires of Faith. The Fall of Rome to the Rise of Islam, 500-700 (The Oxford History of Medieval Europe)
Oxford: Oxford UP 2011, 428 p.

List of maps
Listo of figures

Introdcution and acknowledgements
1. The world that had been Rome
2. The formation of post-Roman society
3. The Romano-Germanic kingdoms
4. The view from the East
5. Byzantium, the Balkans, and the West
6. Religion and society
7. Heraclius, Persia, and Holy War
8. The age of division
9. The princes of the western nations
Epilogue

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Index

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このところ英語圏では、古代末期から初期中世にかけての歴史叙述が次から次へと現れる。かつてであればエドワード・ギボンが主要参考文献として引かれていた時代である。個人による叙述だけでも、部屋の棚にはBryan Ward-Perkins、Mathew Innes、Chris Wickham、Peter Heather、Julia M.H.Smith、Guy Halsallなどが並び、論集ともなるとThe Cambridge Ancient HistoryやThe New Cambridge Medieval Historyをはじめとして、数え上げる気すら起きない。そこにあらたに一冊加わるわけである。

著者のSarrisは、オックスフォード大学で学位を取得し、現在ケンブリッジ大学の上級講師。彼を先ほどあげた歴史家たちとあえて区別するとすれば、彼はローマ史家でも初期中世史家でもなく、ビザンツ史家であるという点であろうか。「ユスティニアヌス帝時代の社会と経済」と題した著作を問うた彼は、従来の「初期中世ヨーロッパ史」とは意識的に立ち位置を変え、ビザンツ帝国という視点から、ゲルマン諸王国が確立するヨーロッパ世界を描き出そうとしている。

ぱっと見た印象を2点。ひとつは、本書が扱う時代は、初期中世の中でも、支配権威の源泉たるローマ皇帝がいまだ東方にしか存在しない時代ということ。カール大帝の戴冠以前のこの時代は、ヴァンダル王国にせよ、東ゴート王国にせよ、フランク王国にせよ、ビザンツ帝国との関係が、それ以前の時代ならびにそれ以降の時代と決定的に異なる。もうひとつは、ビザンツ帝国の側としても、ユスティニアヌスからヘラクリオスにかけての時代は、西方ではゲルマン諸王国の叢生が、北方では蛮族の侵入が、東方ではササン朝ペルシアとの対峙が、南方ではイスラム勢力の台頭が帝国にインパクトを与えた、大きな転換期であったこと。従来の初期中世ヨーロッパ史にとって、ビザンツ帝国は「定数」であったような印象を受けるが、それを「変数」として捉えることで見える世界というのが本書の提示する「ヨーロッパ」なのかなと感じた。

本書はThe Oxford History of Medieval Europeというシリーズの第一巻。総編集はJanet NelsonとHenrietta Leyserという英国を代表する女性中世史家。シリーズそのものはずいぶん以前から告知されていたが、ようやく動き出した。編者の方針は編年順に適任者に依頼するという点のみで、その他厳しい縛りはないようである。検索をかけると、第二巻のカロリング時代をStuart Aerlieが担当することはわかった。

なおThe Short Oxford History of Europeというシリーズもあり、Rosamond KcKitterick編のThe early middle ages(2001)とDaniel Power編のThe central middle ages(2006)が刊行されている。いずれもよくできている。The late middle agesはまだ。

ついでに言えば、ペンギンでもHistory of Europeというシリーズが刊行中である。中世はやはり3冊であり、初期中世はChris Wickham, The Inheritance of Rome: A history of Europe from 400 to 1000(2009)として、盛期中世はWilliam Jordan, Europe in the high middle ages(1996)として刊行済み。わたしが気になっているのは中世末期。予定されている著者はかのAnthony Grafton。日本でも『カルダーノのコスモス』で知られるインテレクチュアル・ヒストリーの旗手であるが、その彼が一般史をどのように処理するのか、とても楽しみである。通史はすべてを盛り込むのではなく、著者が意味あると思う歴史の箇所を切り取り強調すればよい。

ちなみにSarrisによるA History of Western Eurasia from the Age of Attila to the Age of Columbusなる書が、プリンストン大学出版局より予定されている。西洋、ビザンツ、ペルシア、イスラムときたらつぎにユーラシアが射程に入るのは当然と言えば当然なのだが、ヨーロッパの前近代史家で「ユーラシア」に目を向ける者はまだ少ない。出版の暁にはおそらく基本書となるのだろう。



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