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皇帝の閑暇 [Sources in Latin]


ティルベリのゲルウァシウス(池上俊一訳)
皇帝の閑暇(西洋中世綺譚集成)
青土社 1997年 303頁

底本は、
Gervasii Tilberiensis, Otia Imperialia ad Ottonem IV Imperatorem ex manuscriptis, hrsg. Gottfried W. von Leibnitz, Scriptores Rerum Brunsvicensium, Bd. 1, Hannover, 1707-10, 881-1006 S.

本書は第三部の訳である。

校訂者はライプニッツ。哲学の文脈でのみ語られるライプニッツ(1646-1716)はそもそもにおいて文書館勤めの身であり、初期中世史に関する論考も残している。 古文書学者そして歴史家として理解されても良い。

Horst Eckert, Gottfried Wilhelm Leibnitz' Scriptores rerum Brunsvicensium: Entstehung und historiographische Bedeutung. Frankfurt am Main: V. Klostermann, 1971, xix+155 S.
Werner Conze, Leibniz als Historiker. Berlin: Walter de Gruyter, 1951, 85 S.

 ティルベルのゲルウァシウス(c.1140-1220)は、イングランドのエセックス州ティルベリの生まれ。イングランドでヘンリ二世とその息子に仕えた後、パレルモのグリエルモ三世の宮廷に伺候した。1189年グリエルモの死後、帝国領内の「アルル王国」へと移り、1209年には宮廷内紛に勝利した皇帝オットー四世を主とした。ハインリヒ獅子公を父に、イングランド王ヘンリ二世の娘マチルダを母に持つオットーはゲルフ党であり、ブラウンシュヴァイクを拠点とする。ライプニッツの資料集に収められたのはその所以であろう。『皇帝の閑暇』はこのオットーに献呈された。
 あとがきでは、「民俗学者」としてのゲルウァシウスを前面に押し出している。

本叢書には他に、
クードレット(松村剛訳)『メリュジーヌ物語』(青土社 1996), 310頁(ルゴフとルロワ・ラデュリによる「母と開拓者としてのメリュジーヌ」も併録)
ギラルドゥス・カンブレンシス(有光秀行訳)『アイルランド地誌』(青土社 1996), 301頁

があり、いずれも中世の想像界を理解するに当たって興味深い。とくに『アイルランド地誌』は僅かながら北欧の事情にも触れており、ブリテン世界へ北欧の情報がどのように入ってきたのかを知る手がかりともなる。

実はこの叢書には続刊が予定されていた。『皇帝の閑暇』の巻末には、
松村剛訳『聖パトリックの煉獄』
松村剛訳『預言者メルラン』
池上俊一訳『大司祭ヨハネからの手紙』
松村剛訳『アレクサンドロス大王物語』
吉武憲司訳『宮廷閑話集』(上)(下)

とある。この先鋭的な企画そのものが流れてしまったのかもしれないが、そうだとすれば実に残念である。とくに『大司祭ヨハネからの手紙』は中世後期の東方世界像とモンゴル・インパクトを知るためには必須の史料である。西洋学と東洋学を橋渡しするきっかけとなったであろうに。

もうひとつ。松村氏は化物か。


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