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フン族 謎の古代帝国の興亡史 [Early Middle Ages]


E・A・トンプソン(木村伸義訳)
フン族 謎の古代帝国の興亡史
法政大学出版局 1999年 323+19頁

地図
序文

第1章 史料
第2章 アッティラ以前のフン族史
第3章 アッティラ以前のフン族社会
第4章 アッティラの勝利
第5章 ドナウ国境地での和平
第6章 アッティラの敗北
第7章 アッティラ治世下のフン族社会
第8章 ローマの外交政策とフン族
第9章 結論

後記(ピーター・ヒーサー)
補遺
原注
訳者あとがき
索引
参考文献

E. A. Thompson, revised and with an afterword by Peter Heather
The Huns(The Peoples of Europe).
Oxford: Blackwell, 1996, vii+326 p.

* * * * * * * * * *

訳者はタイ語専攻とある。どういうつもりでこの本を訳したのかわからないが、初期中世史の基本書であることに変わりはないので大変ありがたい。

本書の原著は1948年。しかし、オックスフォード大学に籍を置く当代随一の民族移動期研究者ピーター・ヒーサーが本書刊行以降の研究状況をまとめた後記を付したことにより、本書の価値はなお衰えていないことが確認できる。ただし、次の書も併読する必要がある。
Otto Maenchen-Helfen, The World of the Huns. Studies in their History and Culture. Berkeley: University of California Press, 1973, xxix+602 p.
Istovan Bona, Das Hunnenreich. Stuttgart: Konrad Theiss, 1991, 294 S.
Gerhard Wirth, Attila. Das Hunnenreich und Europa. Stuttgart: Kohlhammer, 1999, 208 S.

ボナはハンガリー人。おそらくハンガリーでの研究は膨大にあるのだろう。私の手元には1988年にニュルンベルクとフランクフルトで開催された大規模な展覧会のカタログもある。
Winfried Menghin(hrsg.), Germanen, Hunnen und Awaren. Schätze der Völkerwanderungszeit. Nürnberg: Verlag der Germanischen Nationalmuseums, 1987, 632 S.

なお、ヒーサー自身も、
Peter Heather, The Huns and the end of the Roman Empire in Western Europe, in: English Historical Review 110(1995), p. 4-41.

というフン族に関する論考を書いている。ヒーサーはゴートやランゴバルドに関する基本文献を表した後、昨年リーダブルながら重要な本を上梓した。
Peter Heather, The Fall of the Roman Empire. A New History of Rome and the Barbarians. Oxford: Oxford UP, 2006, 572 p.

フン族については全16章のうち2章を費やしている。私の手元にあるのはオックスフォード大学出版局のものだが、別の出版社から出ている版もあるらしい。なぜだろう。

ゲルマン民族の移動のきっかけとして教科書で必ず言及されるフン族は、どうにもわからないことが多いらしい。パンノニア平原を拠点とした彼らと遊牧民族匈奴との関係は確定しがたく、留保する学者が多い。アッティラはレオ大教皇と会見し、その説得を受けてローマの略奪を取りやめたとされているが、さて。その際どのような人物が通訳を務めたのだろうか。商業や生活レヴェルではともかく、公式会見で異集団との間に事を運ぶ場合には必ず通訳が存在すると考えられるのだが、そうした研究はあるのだろうか。これはヴァイキングについても同じことが言えるのだが。日本語では他に、
ルイ・アンビス(安斎和雄訳)『アッチラとフン族』(白水社; 文庫クセジュ536 1973), 159頁

検索をかけてみるとこんな本もあった。
ウェス・ロバーツ(山本七平訳)『アッティラ王が教える究極のリーダーシップ』(ダイヤモンド社 1990), 189頁

学問的にはおそらく何の価値もないと思うが、訳者が気になった。山本七平って、イザヤ・ベンダサンでしょ。

先日(2007年1月19日)、招待状を貰ったので、印刷博物館で開催されている「モード・オブ・ザ・ウォー」へ行ってきた。東京大学大学院情報学環(旧社情研・新聞研)に所蔵されている、第一次世界大戦期アメリカのプロパガンダ・ポスターの展覧である。かつて外務省が所蔵していたものを旧研究所が譲り受けたようだが、中に面白いポスターがあった。当時の敵国はもちろんドイツなのだが、アメリカは自らを鷲で、敵国を「フン族」で表象しているのである。ドイツは自らを盛んに「ゲルマン魂」と言っているのに。アメリカの歴史イマジネーションにあって、フン族はよほど印象が悪いらしい。ヨーロッパに「ヴァンダリズム(ヴァンダル人)」だとか「ゴシック(ゴート人)」という言葉はあるが、「フン」も似たような表現なのだろうか。いやー、初期中世のイメージが暗黒のままでいるわけだ。あっちのおかあちゃんは子供が言うことを聞かないとき、「アッチラがくるぞ」とでも言うんだろうか。

写真はラファエロによる「レオ大教皇とアッティラの会見」(1519)。このフレスコ画は現在ヴァチカン宮殿を飾っている。


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