Gregory the Great and his world [Medieval Spirituality]
Robert A. Markus
Gregory the Great and his world.
Cambridge: Cambridge UP, 1997, xxiii+241 p.
Preface
1. Introduction: a contemplative in a troubled world
2. Integritas animi: ministry in the Church
3. Sapienter indoctus: scriptural understanding
4. Appropinquante mundi termino: the world in its old age
5. The Christian community and its neighbours
6. Christiana respublica: within the confines of the Empire
7. Terra mea: Italy between two worlds
8. Argus luminosissimus: the pope as landlord;
9. Scissum corpus: the schism of the Three Chapters
10. Ravenna and Rome: and beyond
11. In cunctis mundi partibus: the Far West
12. Inconcussam servare proviciam: dissent in Africa
Epilogue
Appendix: On the distribution of Gregory's correspondence
Glossary of terms for offices
Index to Gregory's works.
General index
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本書はおよそ百年ぶりに英語で著されたグレゴリウス大教皇（540-604）に関する伝記的記述。「グレゴリウス大教皇とその世界」とあるように、グレゴリウスの体験した物理的世界と彼の思考世界という二つのコンテクストからその生涯を再現している。ローマ貴族家門に生まれた彼は、ヨーロッパ中に蛮族国家が叢生するなか、西欧教会組織の確立、典礼改革、世俗君主との外交、ブリテンをはじめとする異邦人の地にへの宣教活動を推し進める。彼による書簡は教会法上の淵源とされ、カロリング期からポストカロリング期、そしてグレゴリウス改革期にかけてヨーロッパ知的世界に確固たる地位を占める。このように初期中世において注目すべき教皇であるにもかかわらず、まとまった研究がなかったという点で本書は画期的であろう。なお、本書より新しいものとして、
John Moorhead, Gregory the Great（The early church fathers）. London & New York: Routledge, 2005, 177 p.
Sofia Boesch Gajano, Gregorio Magno. Alle origine del medioevo. Roma, 2004.
Carole Ellen Straw, Gregory the Great: Perfection in Imperfection（The Transformation of the Classical Heritage）. Berkley: University of California Press, 1992, 309 p.
百年前に出た基本文献は、
F. Homes Dudden, Gregory the Great: his place in history and thought. 2 vols., London: Longmans Green, 1905.
著者はノッティンガム大学中世史講座名誉教授。1924年生まれの教父学者。ピーター・ブラウンとテーマが重なるため歴史家の間で話題に上ることは少ないが、マーカスの論考は古代末期のキリスト教を考えるにあたって必読文献に数えられる。すでに齢80を越えるが、本年ノートｒダム大学での講演録を出版した。
Robert A. Markus, Christianity and the Secular. The University of Notre Dame Press, 2006, 112 p.
伝記的記述は一夜にして出来上がったものではなく、長年にわたって大グレゴリウスに関する論文を積み重ねてきた成果である。その多くは、
Robert A. Markus, From Augustine to Gregory the Great: history and Christianity in late
antiquity（Variorum CS169）. London: Variorum Reprints, 1983.
に収録されている。マーカスは古代末期から中世初期への移行を、アウグスティヌスと大グレゴリウスとの間に見る。
Robert A. Markus, The End of Ancient Christianity. Cambridge: Cambridge UP, 1990, 258 p.
本書はピーター・ブラウンに捧げられている。また、マーカスはブラウンと同様にアウグスティヌス研究の権威であり、そのエッセンスは邦訳のある次の文献に凝縮されている。テクストに即した極めて厳密な文献学的手法を用いた作品である。
Ｒ・Ａ・マーカス（宮谷宣史・土井健司訳）『アウグスティヌス神学における歴史と社会』（教文館 1998）, 48+280頁（Saeculum: History and Society in the Theology of St. Augustine. Cambridge: Cambridge UP, 1970）
グレゴリウスに関してはいくつかの論集がある。
Jacques Fontaine, Robert Gillet, Stan Pellistrandi（ed.）, Grégoire le Grand: Chantilly, Centre culturel Les Fontaines, 15-19 septembre 1982: actes. Paris : Edition du CNRS, 1986, 690 p.
Gregorio Magno e il suo tempo: XIX incontro di studiosi dell'antichita cristiana in collaborazione con l'Ecole francaise de Rome, Roma, 9-12 maggio 1990（Studia ephemeridis Augustinianum 33 & 34）. 2 vols., Roma: Institutum Patristicum Augustinianum, 1991.
J. C. Cavadini（ed.）, Gregory the Great. A Symposium. Notre Dame, 1995.
日本語による伝記的記述は、
鈴木宣明「「神への憧れ博士」 聖大グレゴリウス」『上智史学』40（1995）, 1-22頁
朝倉文市 「グレゴリウス一世の人と思想」『カトリック研究』61（1995）, 73-100頁
そのほか、
木俣元一「Pro lectione pictura est ? グレゴリウス1世、イメージ、テキスト」『西洋美術研究』1（1999）, 155-63頁
徳田直宏「教皇グレゴリウス1世のゲルマン政策 とくにメロヴィンガー・フランクにおける教皇Primatusに関する政治史的考察２」『名古屋大学文学部研究論集』62（1974）, 105-124頁
いずれにせよ、日本での研究は少ない。
グレゴリウス大教皇の原典訳として、
グレゴリウス１世（矢内義顕訳）「対話」『中世思想原典集成５ 後期ラテン教父』（平凡社 1993）, 441-504頁
聖グレゴリオ大教皇（ヨゼフ・シュメールバハ訳）『対話 聖ベネディクトの生涯と奇跡』（中央出版社 1951）
いずれも全４巻中第２巻のみ。なぜなのか。そのほかに、
グレゴリウス１世（熊谷賢ニ訳）『福音書講話』（キリスト教古典叢書16）（創文社 1995）, xiii+484頁
