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封建社会 [Classics in History]


マルク・ブロック(堀米庸三監訳)
封建社会
岩波書店 1995年 560+89頁

序章 本書の目指すところ

第1巻 依存関係の形成
第1部 環境
第1篇 最後の外民族侵入
 第1章 イスラム教徒とハンガリー人
 第2章 ノルマン人
 第3章 外民族侵入の若干の帰結と教訓
第2篇 生活条件と心的状況
 第1章 物的条件と経済の調子
 第2章 感じ、考える、そのしかた
 第3章 集団の記憶
 第4章 封建時代第二期における知的復興
 第5章 法の基礎

第2部 人と人との絆
第1篇 血の絆
 第1章 血族の連帯性
 第2章 血縁の絆の特質と変遷
第2篇 家臣制と知行
 第1章 家臣の臣従礼
 第2章 知行
 第3章 ヨーロッパの展望
 第4章 知行はいかにして家臣の家産となったか
 第5章 複数の主君を持つ家臣
 第6章 家臣と主君
 第7章 家臣制の逆説
第3篇 下級の社会層における依存関係
 第1章 領主所領
 第2章 隷属と自由
 第3章 領主制の形態変化

第2巻 諸階層と人間の支配
まえがき
第1篇 諸階層
 第1章 事実上の身分としての貴族
 第2章 貴族の生活
 第3章 騎士身分
 第4章 事実上の貴族から法律上の貴族への変化
 第5章 貴族身分内部における階層区分
 第6章 聖職身分と職業上の諸階層
第2篇 人間の支配
 第1章 裁判
 第2章 伝統的諸権力 諸王国と帝国
 第3章 領域君候領から城主支配権へ
 第4章 無秩序と無秩序に対する戦い
 第5章 国家再建への歩み 各民族固有の発展
第3篇 社会類型としての封建制とその影響
 第1章 社会類型としての封建制
 第2章 ヨーロッパ封建制の延長

あとがき(二宮宏之)
参考文献
索引

Marc Bloch
La société féodale: I. La formation des liens de dépendance & II. Les classes et le gouvernement des hommes.
Paris: Albin Michel, 1939 & 1940

* * * * * * * * * *

ドイツ法制史学が創り上げた封建制度も、発展段階論の一過程としての封建社会も、時代の制約があるとはいえ、史料解釈の労を省いたわけではない。むしろ、限定的とはいえ、よく見ていたと思う。しかし、それらの提示した中世社会像は、ブロックの封建社会ほどの影響力をもたなかった。ブロックは、条件次第で結び解かれる絆で繋がれる諸集団が織り成す社会像を、中世、とりわけ中世フランスという農村空間に想定していた。柔らかで可変的な社会像である。だが、ブロックの筆致は力強い。

ブロックは個人を描かなかった、と言う。個人ではなく集団こそが彼の叙述の基本単位であり、それが仮に正しいとするならば、彼の関心が深く人文地理学と社会学に向いていたからである。ヴィダル・ド・ラ・ブラーシュとエミル・デュルケムは、二十世紀初頭のフランス知識界をあまねく照らす恒星であり、いずれも集団としての人間を掴み取る。その彼らの手法を中世史学に貪欲に取り込んだのはマルク・ブロックであった、と言ってよい。
Susan W. Friedman, Marc Bloch, sociology and geography: encountering changing disciplines(Cambridge studies in historical geography 24). Cambridge: Cambridge UP, 1996, xii+258 p.

また、ブロックは集団心性という概念の生みの親のごとく喧伝されているが、その理論的枠組みを提供したのは、ストラスブール大学時代の同僚モリス・アルプヴァクスであった。
M・アルヴァックス(小関藤一郎訳)『集合的記憶』(行路社 1989), xiv+264頁

個人を描かぬ歴史には、反発があったかも知れぬ。とりわけ、海峡を隔てたイギリスは伝記の本場であり、中世史家たちはモンマスのジェフリよろしく、個人の生き様を浮かび上がらせていた。写本のインクの中でまどろんでいたアンセルムスやグロステストに生命を吹き込んだリチャード・サザーンも、その最良の部類の一人であるが、彼のヨーロッパ史はブロックと重なる時代を扱いながらも、随分と色合いをことにする。
R・W・サザーン(森岡敬一郎・池上忠弘訳)『中世の形成』(みすず書房 1978), viii+227+xxp頁

20世紀後半より、封建制という説明原理が動揺するようになってきた。それは、エリザベス・ブラウンやスーザン・レノルズの衝撃的な問題提起に端を発する。
Susan Reynolds, Fiefs and vassals: the medieval evidence reinterpreted. Oxford: Oxford UP, 1994, xi+544 p.

彼女らの提言には、封建制という述語を表看板に掲げてきた中世史家のだれもが向き合わねばならない。中世史家の多くは既に封建制と決別しているのかもしれないが、専門家でなければいまなお、中世といえば封建制を想起するという現実は、厳然としてある。

とはいえ『封建社会』が、古典として立ち返る位置に鎮座していることにかわりはない。彼が古文書の山から掘り起こした事実が葬り去られたわけではなく、長らく着させられていた服が少し窮屈になった、ということなのかもしれない。今の私に、新しい服を準備してやる、いやそれどころか寸法を測りなおすだけの余裕もないけれども。

訳書をまとめた故二宮宏之の遺著はマルク・ブロック論であった。講演録をもとにしたこの美しい本は、ブロックを同時代のフランス社会に定位しようとする。ユダヤ性とアルザス性という軸に沿っての読み込みが必ずしも成功しているとは思わないが、それでも躊躇いながらの思索をつづけたブロックの歩みを髣髴とさせる筆力が読者を引き込んでゆく。二宮もブロックも古文書を繰っては、イル・ド・フランスの農村景観を甦らせようとした、という点では共通している。
二宮宏之『マルク・ブロックを読む』(岩波書店 2005), iv+256+13頁

二宮の遺著は、近世史家の見たブロックである。中世史家の見たブロックも、私は読んでみたい。

写真はマルク・ブロック。教授の表情。


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