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聖人崇拝 [Medieval Spirituality]


L・S・カニンガム(高柳俊一訳)
聖人崇拝(コンパクト・ヒストリー)
教文館 2007年 241+23頁

図版一覧
はじめに
第1章 聖人たち はじまり
第2章 聖性の官僚化
第3章 宗教改革 プロテスタントとカトリック
第4章 近代世界へむけて
第5章 20世紀
第6章 聖人、世界の宗教と将来

付録1 守護聖人
付録2 聖人たちの図像

訳者注
訳者解説
文献目録
索引

* * * * * * * * * *

聖人は、中世の精神史を論じるうえで不可欠の要素であるにもかかわらず、なぜか手頃なイントロが日本にはなかった。初学生が読み、聖人とはこういうものかと納得するようなやつである。岩波新書や中公新書あたりで出ていてもおかしくないはずなのに。日本には聖人の研究者がいなかったということなのだろうか。確かに聖人の専門家というのは、一般史にも、宗教史にも、キリスト教史にも思い当たらない。もちろん、聖アウグスティヌスや聖トマス・アクィナスといった著名な教会博士レヴェルは別であるが、教会制度や社会制度の枠組みの中で聖人という存在がどのように機能していたのかを論じたものは、本書が初めてではないかと思う。

中世にかかわるところは、中世史の人間であればまあ大体知っている内容である。興味深いのは近世以降であり、教皇庁の列聖手続きの厳格化、ボランディストその他の学者集団による聖人伝の刊行、ニューマンらによるオックスフォード運動等、より詳しく知りたいと思わせる問題群があちこちに見られる。聖人というとどうしても古代や中世を想起するが、近世以降もカトリックは巨大宗教組織として存続し、聖人信仰は継続しているのだから、何らかの動きがあって当然である。日本はプロテスタント勢力が強いせいか、対抗宗教改革のプロセスすら――イエズス会はあるというのに――よく知られていない。信仰問題としてではなく、歴史的事実としてもう少し紹介されたほうがよいと思う。

中世に関しても、シガルなりアンゲネントなりの翻訳が一冊でもあれば、ずいぶん理解も深まるだろうにと思うが、日本の中世史家はあれやこれやの論文を読む限り意外に聖人に興味を持っていないようにも見える。面白いし、下手に心性史や社会史をやるよりもアプローチしやすいと思うのだが。また、美術史や文学史の研究者とも簡単に話が合うように思うのだが。

訳者は上智の先生なのでカトリックなのだろうが、聖人「崇敬」ではなくて「崇拝」である。理念的には聖人という人物に対する信仰であるが、実際にはその聖人の一部もしくは持物と目される遺物に対する信仰である。一種のフェティシズムであるので、「崇拝」のほうが現実を反映しているのかもしれない。

なお聖人事典の日本語訳はいくつかある。
マルコム・デイ(神保のぞみ訳)『図説キリスト教聖人文化事典』(原書房 2006), 160頁
ドナルド・アットウォーター/キャサリン・レイチェル・ジョン(山岡健訳)『聖人事典』(三交社 1998), 494頁
エリザベス・ハラム編(鏡リュウジ・宇佐和通訳)『聖者の事典』(柏書房 1996), 299頁

アットウォーターのはペンギンブックで人口に膾炙したものであり、ハラムはフランス中世史家である。デイはよくしらない。しかし、私が聖人のデータを引く際に用いるのは次のハンドブックである。
David H. Farmer, The Oxford History of Saints. 6 ed. Oxford: Oxford UP 2004, 606 p.

私はすでにぼろぼろになった第三版を使っているが、知らない間に第六版になっていた。ファーマーも中世学者で、イントロになかなかいいことを書いている。高いものではないのでそろそろ買い換えてもいいかなと思う。


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