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地質学の歴史 [Intellectual History]

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地質学の歴史
ガブリエル・ゴオー(菅谷暁訳)
みすず書房 1997年 330+xxxvi頁
序言
1.発端
2.世界の中心にて
3.地球はいかにして形成されたか
4.神の作品
5.科学の誕生
6.山はいかにして誕生したか
7.歴史家ビュフォン
8.産業に仕えて
9.地下の火
10.化石とともに
11.過去の世界と現在の世界
12.世界を築く激変
13.原初の時代
14.地球の破砕
15.漂移する大陸
16.海の誕生
訳者あとがき

人名索引

Gabriel Gohau
Histoire de la géologie
Paris: La Découverte 1987

* * * * * * * * * *

東京大学の入試は、一次のセンターで理科を一つ、二次の筆記で社会を二つ選択せねばならない。一番楽な組み合わせとして、地学、地理、世界史というのがあった。なぜかというと地理の知識が、地学と世界史双方とかぶっているからである。予備校関係者に言わせれば最悪なのは生物、日本史、世界史であるらしい。相互にそれほど連関がない上、いずれの科目もかけた時間の割には得点できないからである。予備校すら存在しないわが田舎県の母校は、教師の数と時間割の関係上、生物、日本史、世界史以外の選択ができなかった。

そんなこんなで地学にはトンと縁がなかったが、読んでみるとなかなか面白い。教職の関係で自然地理学を履修したとき、プレート・テクトニクスという仮設は習った。が、面白いのはそれ以前の地学思想である。ウェゲナーの大陸移動説であり、前近代の聖書的世界観と堆積学の関係である。特に前近代の発想は、天動説に基づいている限りにおいて現在の学問に何の裨益するところもないのだけれど、唯一つ、所与の条件下において人間の想像力がどれほど飛翔できるのかを実感することができる。

こういった本は、人文学などどうでもよいと思っている理科系の人間こそ読むべきである。あえて教養とは言わない。未知のものに対する好奇心のない奴がまともな発見なんかできるわけないと思うのだが。他方で理系の知に関心を持たない文科系もいかがなものか。もちろん私だって特殊相対性理論も、シュレジンガー方程式も、ビッグバン理論もよくはわからないけれども、理系の友人の解説を聞いた時にはなんとなくわかった気がするし、彼らの知性とその分野の積み重ねに対する敬意を抱かざるをえない。

なお、地学思想において重要な役割を果たすのが、デンマーク人ニルス・ステンセン/ニコラウス・ステノ(1638-86)である。イタリアのトスカナで発見されたサメの歯の化石に基づいて、地層の堆積プロセスを論じた『プロドロムス』を残している。これはラテン語からの邦訳で読むことができる。
山田俊弘訳『プロドロムス』(東海大学出版会 2004年)

なおこの訳者は、極めて詳細なステノに関する博士論文がある。テクスト翻訳部も含めれば400字詰めで二千枚に達する大論文である。
『17世紀西欧地球論の発生と展開 ニコラウス・ステノの業績を中心として』(東京大学 2004年)

前にも書いたが、従来の思想史は、以前の思想と比べて何が新しいのかという点に力を注いできた。無意識のうちに、以前より今のほうがいいに決まってるだろという了解を強制する作法である。一言でいえばホイッグ史観である。もちろんそれも必要な視点ではあるのだが、まともな歴史学者であれば、違和感を感じるはずである。以前の思想から何を受け継いだのか、そして同時代の思想コンテクストがどうであったのかという視点は絶対に不可欠である。上記博士論文はそういった観点に配慮した労作である。

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