SSブログ

The Beginnings of Western Science [Intellectual History]

The Beginnings of Western Science.jpg
David C. Lindberg
The Beginnings of Western Science. The European Scientific Tradition in Philosophical, Religious, and Institutional Context, Prehistory to AD 450. 2 edition.
Chicago: Chicago UP 2008, xvi+488 p.List of Illustrations
Preface
1. Science and Its Origins
2. The Greeks and the Cosmos
3. Aristotle's Philosophy of Nature
4. Hellenistic Natural Philosophy
5. The Mathematical Sciences in Antiquity
6. Greek and Roman Medicine
7. Roman and Early Medieval Science
8. Science in Islam
9. The Revival of Learning in the West
10. The Recovery and Assimilation of Greek and Islamic Science
11. The Medieval Cosmos
12. The Physics of the Sublunar Region
13. Medieval Medicine and Natural History
14. The Legacy of Ancient and Medieval Science

Notes
Bibliography
Index

* * * * * * * * * *

たぶん最も新しい中世科学史の概説。急な必要があって購入した。初版は1992年だが、アラビア科学史とその受容に関する研究の急速な進展をうけて改訂の必要を感じたらしい。私の手元には両方の版があるが、小見出しは変わっていないけれども、確かに注や文献は大幅に書き換えられている。

12世紀ルネサンスはしばしば論じられるが、その核心は大学の勃興である。なぜ大学が勃興したかというと、別に余剰生産だとかそれに基づくメンタリティの転換だとかという社会経済史的な内在的要件ではなく、アラビア世界に保存されていたアリストテレスの作品がラテン語に翻訳されたという、極めて外在的要件による。そしてそのテクストの多くは、いわゆる科学史の分野に属するものが多い。したがって12世紀ルネサンス論は、大学史と科学史を抜きに考えることはできない。12世紀ルネサンスを論じ始めたのはチャールズ・ホーマー・ハスキンズというアメリカ中世学会の創設者であることはたぶん中世史を専攻する者ならだれでも知っていると思うが、ハスキンズの狭い意味での専門が、じつはアラビア世界から西欧に移入された科学テクストにあることはあまり知られていない。なぜかノルマン人研究ばかりに光が当てられている。

オヤジから5歳でラテン語とギリシア語を叩き込まれたという嘘か本当かわからないエピソードの付きまとう天賦の語学的才能をもったハスキンズは、ヨーロッパ中の文書館をめぐり、なお校訂されていない科学テクストを精査して、のちの12世紀ルネサンス論の下敷きを作り上げた。ノルマン史家としてのハスキンズの後継者はジョセフ・ストレイヤーであるが、科学史家としてのハスキンズの同僚はベルギーからの移住者ジョルジュ・サートンであり、その後継者はアメリカの誇るマーシャル・クラーゲットである。本書の著者リンドバーグも、その系譜に連なる。
Charles Homer Haskins, Studies in the History of Mediaeval Science. 2 ed. Harvard UP 1927.

本書は日本語訳の予定があると、リンドバーグのホームページにある。誰が手をつけているのか知らないが、本書が邦訳されれば、日本における中世科学史の教科書ともなろう。なおリンドバーグの編著が一冊だけ邦訳されている。
D・C・リンドバーグ/R・L・ナンバーズ(渡辺正雄監訳)『神と自然 歴史における科学とキリスト教』(みすず書房 1994年)

この編著は、タイトルだけ見れば古臭い科学と宗教の闘争史であるが、決してホイッグ史観ではない。アメリカにおけるファンダメンタリズムとダーウィン的自然観との相克についての素晴らしい論考も収録されている。大著だが、個人的には得るものの多かった良書。

なお本書はあくまでも、ある特定の視点から諸事実をまとめあげた教科書である。「科学」をどのように定義するかによって、選択される事実も意味付けも変化する。日本語で読める中世科学史の文献は少なくないが、
A・C・クロムビー(渡辺正雄・青木靖三訳)『中世から近代への科学史』2巻(コロナ社 1962-68年)
伊東俊太郎『近代科学の源流』(中公文庫 2007年 原著1978年)
J・E・マードック(三浦伸夫訳)『世界科学史百科図鑑 古代・中世』(原書房 1994年)
E・グラント(小林剛訳)『中世における科学の基礎付け』(知泉書館 2007年)

あたりが私の経験上、一般史家の導入としては手ごろだと思う。とくにマードックの著書は、図版が多く、中世科学の世界を目で確認できる。
nice!(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

ローマ法数学教育2008年8月号 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。