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イブン・バットゥータの世界大旅行 [Medieval History]

イブン・バットゥータの世界大旅行.jpg
家島彦一
イブン・バットゥータの世界大旅行 14世紀イスラームの時空を生きる
平凡社新書 2003年 299頁

はじめに
序章 イスラームと旅・移動
第1章 拡大する13・14世紀のイスラーム世界
第2章 『大旅行記』という書物
第3章 イブン・バットゥータの旅(1) タンジールからメッカまで
第4章 イブン・バットゥータの旅(2) 中東世界からキプチャク太平洋へ
第5章 イブン・バットゥータの旅(3) 中央アジアとインド
第6章 イブン・バットゥータの旅(4) 東南アジアと中国
第7章 イブン・バットゥータの旅(5) アンダルスとブラック・アフリカ
結び イブン・バットゥータの旅の虚像と実像
あとがき
イブン・バットゥータの旅の年譜
参考文献

* * * * * * * * * *

著者家島彦一(1932-)は、20年にわたり、世界各地で『大旅行記』の写本と向き合い、その成果を1996年から2002年にかけて8巻本の詳細な注釈つき邦訳として、平凡社東洋文庫におさめた。本書は、その内容をより一般向けに整理した著作である。

『大旅行記』は、イブン・バットゥータの著作と高校世界史では習ったが(わが高校の世界史教師は、バッツータと言っていた)、正確には、バットゥータの残した元ネタをイブン・ジュザイイが編纂したものである。記録内容をすべて信じるとすれば、バットゥータは、中国からアフリカまで、14世紀のユーラシア世界をすべて経巡った大旅行家である。むかし日本にも「なんでも見てやろう」といっていた活動家がいたが、比べ物にならない。もちろん飛行機を使った(安全性を考えて使わざるを得なかった)猿岩石やドロンズの及ぶところでもない。

著者は、欧米の居並ぶオリエンタリストによる『大旅行記』の記述内容に対する疑義に対して、「私は『大旅行記』の邦訳・注釈の過程で、彼の記録内容と他の関連史料との比較研究を試みたが、事実としてむしろ符合する点が多く、記録の真実性については疑うべくもない、と思った」とある。ここに著者の文献学者としての実力があらわれている。その見解の当否はいったん留保するとしても、海外の研究の切り貼りだけをやっている研究者からは絶対出てこない言葉である。

家島は慶応大学の前嶋信次に師事する。かつて慶応大学は前嶋信次と井筒俊彦という大イスラム学者を抱えていた。イスラムという枠を超えた京都大学の羽田一門(これこれ)や、若手の育成に莫大なエネルギーを注ぎ込んだ東京大学の佐藤一門も確かに素晴らしいが、イスラム学といえば私はいつも慶応を思い出す。なんで慶応なんだろうねえ。

昔イスラム史の講義で、「なにかイスラム関係の本を一冊読んでレポートを書け。ただしルバイヤートは除く」という課題が出た。私は家島の『イスラム世界の成立と国際商業』を、わからないながらも必死に読んでまとめて提出した。手書きのレポートはもうこの世からは抹消されているだろうけれども、この新書に収められた地図を見ていると、学生として単位をかき集めていたかつての日々が思いおこされた。

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