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ローマ美術研究序説 [Arts & Industry]

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オットー・ブレンデル(辻成史監訳/川上幸子・中村るい訳)
ローマ美術研究序説
三元社 2008年 xxx+231頁

訳者まえがき(辻成史)
序文  J・J・ポリット
謝辞
略号一覧

1.ローマ美術研究序説
ローマ美術の問題点
問題の変遷
ルネサンスの理論
成長と衰退の理論
再評価
オリエントかローマか
国民主義の時代
現在――ローマ美術への二つのアプローチ
これまでの理論の包括的な評価
ローマ美術の二元性
多元論:同時代的なもののなかの不均衡

2.近代からみたローマ美術
ローマ美術の範囲
時代の限定
ローマ美術のカテゴリー
公的美術
ギリシア的要素
絵画
コピーとバリエーション
絵画の内容
アレゴリー――隠されたヴィジョン

訳者解説(中村るい)
参考図
年表
索引

Otto J. Brendel
Prolegomena to the Study of Roman Art
New Jersey: Yale UP 1979

* * * * * * * * * *

残念ながら本書を読んでもローマ美術はわからない。ローマ美術研究史である。だからビアンキ・バンディネッリなどで具体例を網膜に焼付け、モノの変化の流れの大要をつかんでおかないと、話が抽象的過ぎて、はあそうですかということになる。

が、それさえクリアーしておけば、本書はとても魅力的な本である。高校の世界史で「美術はギリシア、技術はローマ」と刷り込まれたおかげで、私たちのローマ美術に対する関心はさほど高くない。本書を読んでもローマ美術の研究が、必ずしも厚いものではないことがわかる。しかしながら、あれほど広大な空間を覆ったローマ帝国である。そこで「美術」と呼べるものがなかったというのは普通に考えてありえない。ローマ人とて美を求め、彼らなりの美を生み出したはずである。その審美基準は今は失われてしまったけれども、それを掘り起こすのが美術史家の仕事であろう。リーグルとヴィクホフというウィーン学派の重鎮の諸説に始まり、戦後にいたるまでのローマ美術研究史を丁寧に腑分けする。

学説を一通り見て面白いと思うのは、ローマ研究にとっていかにギリシアが重みとなっているかという点である。「古典古代」という言い方があり、ギリシアとローマは一くくりにするというのが西洋学の常道である。しかし東地中海のアテナイを中心としたギリシア世界と、西地中海のローマを中心としたローマ世界(のちギリシア世界も包接するが)の連続性を云々すると言うことが、昔から不思議でしょうがなかった。日本ではギリシア史といえばアテナイ都市史、ローマといえば帝国史で、「都市史と帝国史が被るわけねーだろ」と思っていたし、実際両世界の連続性をうまく説明したものにも出会わなかったからである。でも、芸術作品に見える連続性を見て、やはり「古典古代」というくくりにも、一定の意義があるのだと再確認した。

さて、ローマ美術の問題はただ古代にとどまるものではない。というのも、ローマ美術、とりわけ末期ローマの美術に対してある程度の定見を持たなければ、その後継美術である初期キリスト教美術やビザンチン美術について分析などできはしないからである。逆に言えば、そのような分野の専門家は、ローマ美術に対して何らかの見解を表明しなければ先に進めないはずである。もしすすめるとすれば、それは信仰のなせる業であろうが、だとしたらいかにも非学問的ではある。

訳文はとても読みやすい。英語圏ではすでに古典となっている本であり、古代美術に関心のある向きは必読となっている。ほんの作りはとても丁寧。三元社は美術と言語の専門書肆であるが、何でこの二つの組み合わせなんだろうか。

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