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Les métaux dans l'ancien monde du Ve au XIe siècle [Early Middle Ages]

Schmitt and Le Goff.JPG
Maurice Lombard
Les métaux dans l'ancien monde du Ve au XIe siècle(Études d'économie médiévale 2).
Paris: Mouton 1974, 295 p.

Avertissement
1. Les métaux dans l'ancien monde a la fin du ve siècle
2. Les graundes invasions et l'évolution des métallurgies(Ve-VIIe siècles)
3. Métaux et métallurgies dans le monde musulman (VIIIe-XIe siécles)
La synthèse musulmane: une étape dans la 'conquête minérale'
Bibliographie
Table des cartes et schémas
Table et sources des illustrations

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初期中世イスラム学者モリス・ロンバールの代表的著作。ロンバールは1965年に死んでいるので、著作すべてが遺稿ということになる。それは彼が早世したというだけでなく、彼の研究がどれだけ重要視されていたのかの証左でもある。遺稿の整理に当たったのは、フェルナン・ブローデルとジャック・ルゴフ。実務に当たった中には若き日のクラピシュ・ズベールもいる。以下に掲げる全著作のうち、『初期中世の空間とネットワーク』だけが論文集で、あとは一貫した著作となっている。おそらく、ロンバールの講義ノートに基づいているのだろう。

L'Islam dans sa première grandeur, VIIIe-XIe siècle. Paris: Flammarion 1971.
Monnaie et histoire d'Alexandre à Mahomet(Études d'économie médiévale 1). Paris: Mouton 1971
Espaces et réseaux du haut moyen âge. Paris: Mouton 1972
Les textiles dans le monde musulman du VIIe au XIIe siècle(Études d'économie médiévale 3). Paris: Mouton 1978

ロンバールの文章は、一本だけ邦訳されている。
モリス・ロンバール「マホメットとシャルルマーニュ 経済的問題」佐々木克己編訳『古代から中世へ ピレンヌ学説とその検討』(創文社 1975), 110-132頁

金属の問題は、経済にとっても権力にとっても、根本的かつ不可欠のテーマ。にもかかわらず、論じられることは極めて少ない。理由は明らかで、文献史料ではほとんどどうにもならないからである。中世後期になれば、それでもいくらかの鉱山についてのまとまった資料が残っているが、初期中世はどうしようもない。したがって本書は必然的に学際的となる。ロンバールの狭義の専門はアラビア文献学であるが、西欧、ビザンツ、イスラムの文献学、美術史学、考古学、冶金学の文献を渉猟し、全体像を描き出している。ゲルマン=スカンディナヴィアの武器にまで目配せをし、その経済史上の重要性を説くにあたっては、脱帽というほかない。この分野の研究としては、まだ凌駕されていないのではないだろうか。北欧の研究者が本書を参観しているとは到底思えない。

ロンバールの著作の魅力は、その特徴的な地図にある。本書にも、A3よりも大きなユーラシア地図が、5枚添付されている。定量的な分析ではないものの、初期中世の交易ネットワークの広がりを示すおそらく最良の視覚データである。かつてアナールの歴史家たちは、社会学と地理学に敬意を払っていた。いつの間にか文化人類学にシフトしていたが、フランスの人文地理学は世界最高の水準を保っている。ロンバールがそうであったように、歴史家はもっと地理学の手法というか感覚を身につけるべきなのだと思う。といっても最近の(日本の)地理学は、該博な知識が必要とされる地誌が衰退して、英語だけですむ社会学の亜流みたいなのが増えているので、人文学者にはあまり役には立たないかもしれない。

モリス・ロンバールについて、残念ながら私の手元のデータでは(著作はすべてあるにもかかわらず)、生年も学歴もわからない。雑誌や新聞で死後報をさがすしかない。1957年から1960年まで、高等研究実践学院の第6セクション(1975年に社会科学高等研究院として分化)と高等師範学校で教鞭をとる。イスラム学者ゆえか日本ではほとんど知られていないが、ロンバールはルゴフの最も尊敬する研究者であり、ブローデルを説得してルゴフを第6セクションに引き入れた恩師でもある。ルゴフは彼へのインタビュー(鎌田博夫訳『ル・ゴフ自伝』法政大学出版局 2000年、89-95頁。ただし翻訳はよくない)で、ロンバールをべた褒めしている。二人を読み比べたものであれば、ルゴフの『西洋中世文明』の第一部が、いかにロンバールの影響下にあるかがわかるだろう。

写真は社会科学高等研究院の中世歴史人類学講座の前ディレクターのルゴフと現ディレクターのジャン・クロード・シュミット。こちらは二人の2005年の対談。フランス語を聞き取れる方はどうぞ。シュミットは来日時より老けたなあ。

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