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ヴァイキングと都市 [Medieval Scandinavia]

ヴァイキングと都市.jpg
H・クラーク/B・アンブロシアーニ(熊野聰監修・角谷英則訳)
ヴァイキングと都市
東海大学出版会 2001年 viii+274頁

まえがき
第1章 序
第2章 7世紀末での西欧都市
第3章 8・9世紀の北西ヨーロッパにおける都市
第4章 スカンディナヴィアの都市
第5章 ブリテン島のヴァイキング
第6章 スラヴ・バルト地域の都市
第7章 北・西・東ヨーロッパの都市:その物質的構造と経済
第8章 現状および将来の課題

原注
日本語版への補遺 北ヨーロッパにおける1990年代の都市研究
史料・文献目録
英語版第2版へのあとがき
監修者・訳者あとがき
索引

H. Clark and B. Ambrosiani
Vikingastäder
Wiken 1993

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1991年に英語版が出たが、翻訳書は1993年のスウェーデン語改訂増補版を底本としている。私はスウェーデン語原著を見ていないが、バルト海地域の記述に大幅な修正があったらしい。考古学は日進月歩なので、さもありなん。

本書は、北ヨーロッパの初期中世経済を論じるにあたって、極めて重要な書物である。初期中世経済というとどうしてもピレンヌにたちかえることになるが、彼の関心は基本的にヨーロッパの中枢たるライン=ロワール間地域と地中海との関係にある。だからこそ、あれだけ雄大なピレンヌテーゼも生まれたといえる。だがしかし、北海交易圏をほとんど考慮に入れていなかったため(第二次世界大戦以前の研究状況を考えれば致し方ないことではあるが)、今見ると、いびつな経済構造を私たちはそこに見ることになる。社会経済史史料の貧しい初期中世の北海・バルト海圏は、考古学に大幅に依存することで、その重要性を歴史学にアピールすることになった。本書はその北欧地域の総括である。

初期中世のスカンディナヴィア人の重要性は、ただ北欧が東と西の中継地点になったというにとどまらない。彼らの植民先であるノーサンブリア、スコットランド、アイルランドの沿岸部やノルマンディは、紀元千年前後の北海交易ネットワークのハブとなった。商人としてのヴァイキングが、歴史記述において重視されるゆえんである。ヨーク、ダブリン、ルアンは、ヴァイキングがつくった町である。ただし、一時はやったヴァイキングの本質を商人とする議論はあきらかにゆきすぎである。それならば、フランク人の本質も商人であるし、ランゴバルド人の本質も商人である。紀元千年のスカンディナヴィア人とて階層分化は進んでいたので、誰もが片手に刀剣と盾を、片手に秤と銀貨をといった姿は、考えにくい。もちろん、商人とて自衛はするが。

この地域の交易でもっとも重要なのは、商品としての奴隷である。残念ながら、研究はほとんどない。文献の関係もあるが、奴隷について語ることに対するバリアのようなものも感じる。ビルカやへゼビューが奴隷交易の中継地であったことは『アンスガル伝』からも示唆されるし、イングランドやアイルランドの編年誌の記述には奴隷狩りがしばしば見られる。狩った奴隷はどこかで売り飛ばさねばならない。西欧ではヴェルダンが著名だが、私などはルアンもその一つであったと考えている。一仕事終えたら、この問題の研究も再開せねばならん。

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