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After Rome [Early Middle Ages]

After Rome.jpg
Thomas Charles-Edwards ed.
After Rome(Short Oxford History of the British Isles).
Oxford: Oxford UP 2003, xviii+342 p.

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List of maps
Acknowledgements
List of contributors

Introduction
1. Nations and kingdoms(Thomas Charles-Edwards)
2. Society, community, and identity(Thomas Charles-Edwards)
3. Conversion to Christianity(John Hines)
4. The art of authority(Jenifer O'Reilly)
5. Latin and the vernacular languages: the creation of a bilingual textual culture(Andy Orchard)
6. Texts and society(Robin Chapman Stacy)
Conclusion(Thomas Charles-Edwards)

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Genealogies
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Maps
Index

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表紙の写真にいらんものがついとるが、他に見つけられない。出版社にあるやつは小さすぎる。

オックスフォード大学出版局が企画したブリテン史の第2巻。2巻から5巻までが中世だが、この巻が一番面白い。書き手は歴史家だけではない。ハイネスは考古学者だし、オーチャードはベーオウルフ研究で有名な英語学者。それぞれが卓越した学者で、他分野の成果をきちんと吸収しながら、自分のディシプリンで議論している。これがあるべき中世学の姿である。人様の結果だけを持ってきたところで、きちんとした絵が描けるはずもない。

かつてイングランド史、アイルランド史、スコットランド史(ついでにウェールズ史)は別の分野だった。しかし、いまやブリテン史という言い方が、当たり前となりつつある。もちろんその背後には、ネイションの統合と融解といった現実的な問題もあるのだろうが、境界線の流動性が高い中世においては、島嶼全体で論じたほうが、見えるものが大きい。ついでに言えば、ブリテンという塊で見れば、大陸との比較や連結も容易となる。ヨーロッパ史の中のブリテン史としてはこういう本もある。

と、このような研究の流れを肯定的に見てみたものの、とりわけ初期中世に関しては難しい問題もある。史料の残り方である。中世史にとっての主幹史料は、行政文書と教会文書である。しかしながらこれらはすべての空間に均一に分布しているわけではなく、多くの場合、支配的立場にあった王家に近い文書庫に、集中的に伝存している。それはある特定権力の選別を経た結果であることは、近年の史料研究に馴染んだ歴史家であれば常識となっている。アイルランドやスコットランドを論じる場合、どうしてもイングランドに残っている、イングランド王家を肯定的に評価する史料に依拠せざるを得ない。もちろんそれ以外の史料もあるけれど、客観性に問題があったり(聖人伝)、使い方が難しかったりするもの(初期法や韻文)がほとんどではないか。かくして、イングランドとそれ以外では出発点の位置が違う。ポスト・コロニアリズムなどという色のついた言葉を使いたくはないが、ブリテン史を実証的にすすめるためには、すべての人間が知っておかねばならないことである。編者のチャールズ=エドワーズは、アイルランドの専門家。

なお、全10巻のこのシリーズは、慶應大学出版会より、記念事業の一環として順次翻訳予定である。2月にはパンフレットも刷り上るだろう。この巻は、早いほうじゃないかな(笑)。

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