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「歴史」の体制 [Historians & History]

歴史の体制.jpg
フランソワ・アルトーグ(伊藤綾訳)
「歴史」の体制 現在主義と時間経験
藤原書店 2008年 382頁

日本語版への序文
序章 時の秩序・「歴史」の体制
第1部 時の秩序1
第1章 歴史の諸島
第2章 オデュッセウスとアウグスティヌス 涙から瞑想へ
第3章 シャトーブリアン 「歴史」の旧体制と新体制のあいだで
第2部 時の秩序2
第4章 記憶・歴史・現在
第5章 遺産と現在
結論 二重の負債、あるいは現在の現在主義

追記
原注
訳者解説

François Hartog
Régimes d'historicité. Présentisme et expériences du temps.
Paris: Seuil 2003

* * * * * * * * * *

アルトーグの翻訳が出たので、喜び勇んで買いました。新幹線の往復で読みました。一読では、わたしには理解できません。いや、引かれている具体例はいいんだけどね、時間観念の複数性というか、歴史記述者の視点の不定性というか。本書はそこを問おうとしているのだけれど。自分で何を言っているのかわからんな。

アルトーグは本来、ヘロドトスの歴史記述で著名な古典学者。ただわたしが彼の名前を知ったのは、フュステル・ド・クーランジュを軸に据えたフランス史学史の研究のポッシェ版を、ストラスブールの書店(そこそこのが3店くらいあったが、フナックだったけな)で見つけたとき。ただの古典学者から一歩踏み出したのは、1946年という生年と関係あるのだろうか。本書は、著者アルトーグの情況発言と言えなくもない。個人的には、シャトーブリアンの分析が面白かった。

解説でアルトーグをヴェルナンやヴィダル・ナケに続く代表的古典学者とあるが、そうなのかな。彼らは確かに日本で有名だが、それは古典学者としてではなく、政治的発言ゆえにではないか。思想をやっている人にはそういったところが面白いのだろうが、たとえばホロコーストと西洋古典学者としての資質とは何の関係もない。ヒトラーの記録官をしていようがシュラムの研究は今でも価値があるし、皇国史観を唱えようが平泉澄の最初の二冊が当時にあって革新的であったことは事実である。思想家はどうか知らないが、歴史家は、事実の持つ重みに敏感であるべきである。だから、アルトーグのヘロドトス論やクーランジュ論こそ、訳されてしかるべき。

訳はいい。駒場の若い方のようだが、明晰。アルトーグは何度も来日しているようだ。

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