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L'an mil et la paix de Dieu [Early Middle Ages]

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Dominique Barthélemy
L'an mil et la paix de Dieu : la France chrétienne et féodale 980-1060.
Paris: Fayard 1999, 637 p.

Prologue
Ch.1: Les péchés de la chevalerie
Ch.2: Le millénaire du Christ
Ch.3: Les révolutions de l'an mil
Ch.4: Les liturgies d'Aquitaine
Ch.5: Le renouvellement des pactes (1019-1038)
Ch.6: Les serments de Bourgogne et la faiblesse du roi (1021-1041)
Ch.7: Les débuts de la trêve de Dieu

Textes cités
Bibliographie succincte
Cartes
Généalogies
Index des noms de personnes et des noms de lieux

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夜の関門大橋を見ながら「なぜ九州から本州へと向かう交通量よりも逆の交通量のほうが多いのか」であるとか、「海岸線があれだけ明るいにもかかわらず山の稜線になぜ灯はつかないのか」といった質問が即座に出てくる研究者を私は他に知らない。「24時間頭の中で何かがダンスしている人」という言い回しの歌があったが、そんな感じ。

著者のバルテルミーはフランス史を紐解くものなら誰一人知らぬもののない歴史家である。1953年にパリに生まれ、高等師範学校を卒業後、チエール財団の奨学金を取得し、中世国制史の大家フランソワ・ルマリニエのもとで博士論文を仕上げ、現在はパリ第4大学の教授である。フランス知識社会の中のスーパーエリートにしてジョルジュ・デュビーやピエール・トゥベールの系譜に連なる封建制研究の権威であり、紀元千年変動論というフランス中世史特有の問題に正面から取り組み、旧説を批判しながら11世紀変革論を打ち出した。

わたしは本書を読みこなしたわけではないので正確なことは言えない。神の平和運動とは紀元千年前後に教会の主導で内戦状態の社会に平和を構築する紛争解決プロセスの試みである。一般には南フランスを発祥地とし、しだいにドイツにも広がったとされる。彼の議論の一般的特徴は、多くの歴史家がそうするように聖俗の世界を截然とわけ、教会は教会、世俗は世俗という別の論理で理解しようとしないところである。騎士という戦士階級の最たる存在の中にキリスト教イデオロギーやメンタリティをすくい上げ、また教会の中に世俗権力の力を利用する現実的対応を見る。そういった意味では全体史といってもよいのかもしれない。

彼の特徴はその議論の先鋭さとともに、特徴的な文体にある。読んだ人はわかると思うが、バルテルミーのフランス語は大変難しい。単語が難しい、言い回しが難しい、ついでに言えば時折見られる詩的な物言いによる論理の展開が難しい。読んでいても、わかったようなわからないような、狐につままれた気分になる。フランス的といえばそうなのだが、翻訳者は(そんな物好きがいればの話だが)苦労するだろう。

著作一覧を挙げておこう。リストには雑誌論文はもちろん、編著や寄稿しただけの論集も入れていない。純粋に単著だけである。
- Les deux âges de la seigneurie banale: Coucy, 11-13 siècle. Paris: Publications de la Sorbonne, 1984, 598 p.
- L'ordre seigneurial: 11-12 siècle(Nouvelle histoire de la France médiévale 3). Paris: Seuil 1990, 318 p
- La société dans le comté de Vendôme de l'an mil au 14 siècle. Paris: Fayard 1993, 1118 p.
- La mutation de l’an mil a-t-elle eu lieu? : servage et chevalerie dans la France des 10 et 12 siècles. Paris: Fayard 1997, 371 p.
- Chevaliers et miracles. La violence et le sacré dans la société féodale. Paris: Armand Colin 2004, 295 p.
- La chevalerie: de la Germanie antique à la France du 12 siècle. Paris: Fayard 2007, 522 p.

合わせればすでに3000ページ以上である。今は10世紀から12世紀のフランス史を書いているらしい。バルテルミーのすごいところは書くものすべてが注釈つきのモノグラフという点である。口述筆記のようなぬるーい本でごまかしたりはしない。だからといって彼は一般向けの仕事を馬鹿にしているわけではなく、テレビやラジオでも積極的に話す。ただしそれは自分がソースを知っているところからはみ出す仕事、つまり英仏比較やヨーロッパ史といったような一つメタレベルが上の話はしないということでもある。英米の経験主義的人類学を利用した中世史研究は高く評価しているが、だからといってマルク・ブロックの『封建社会』やルゴフの『西洋中世文明』のような概論を書くつもりはないのかもしれない。そのあたりはデュビーやトゥベールといった師と重なるか。


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