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世界史における時間 [Intellectual History]

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佐藤正幸
世界史における時間(世界史リブレット128)
山川出版社 2009年 90頁

考える歴史との出会い
1.世界の歴史を一つの時間軸に並べる
2.世界の新聞にみる時間表記
3.世界共通紀年となりえたキリスト紀年
4.キリスト紀年の変容
5.新たな世界共通紀年は可能か

参考文献

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本書は数あるリブレットの中でも出色の出来。文章も明晰だし、頁数の割りに内容も濃い。日本史、西洋史、東洋史の区別なく、読む価値がある。

著者の佐藤について私は5年前まで知らなかった。『歴史認識の時空』(知泉書館 2004年)を読んで、ぜんぜん知らない人だけどこれはすごいんじゃないのか、と思った。慶應義塾大学で歴史哲学を学んでいるが、わけのわからない文明論ではなく、世界各国の紀年法の比較という具体的な作業を通じて、人間の時間認識についての考察を進める。1946年生まれの山梨大学の教授であるが、President of the International Commission for the History and Theory of HIstoriographyでもある。

紀年法に関する本は必ずしも少なくないが、多くは、西洋だけ、もしくは東洋だけである。本書は、東西を問わず可能な限り多くの国の紀年法を紹介し、その特徴を提示している。「紀年が一つしかないキリスト教圏の国々が特別なのであって、自分の文化に深く根ざした固有の紀年と、世界共通紀年という複数の紀年が、現代の諸国家における紀年意識の基盤には存在」(36頁)していると主張する。実用という点から考えると、現段階ではキリスト紀年がもっとも有効のようである。

本書の紀年法の紹介は極めて概括的なものである。前近代世界、とりわけ西洋中世世界における紀年の記述システムが本書に書かれているものより複雑であることは、中世史学を学ぶものであれば誰でも知っている。国王証書には、西暦、インディクテオー、支配者の統治年が並置される。実はその数え方が国家によって、場合によっては地域や都市によってもずれることもしばしばある。さらに高山が紹介するように、ラテン・カトリック、ギリシア正教、イスラム、ヘブライの文化が深く混交するシチリアにおいては、同一の活動空間であるにもかかわらず、各文明圏の紀年法が複雑に絡んで生活に組み込まれている。高山の博士論文のアペンディクスでは、こうした各文明圏で異なる紀年法を西暦に換算する作業に多くのページを割いていた。

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