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近世ヨーロッパの言語と社会 [Intellectual History]

近世ヨーロッパの言語と社会.gif
ピーター・バーク(原聖訳)
近世ヨーロッパの言語と社会
岩波書店 2009年

日本語版への序文
序章 共同体と諸地域
第1章 「話を聞けば、どんな人物かが判明する」 近世における言語の発見
第2章 ラテン語 言語共同体への模索
第3章 競い合う俗語群
第4章 標準語化する諸言語
第5章 混ざり合う諸言語
第6章 言語の純化
終章 言語と民族

訳者あとがき
参考文献
年表
地図・付表
索引

Peter Burke
Languages and communities in early modern Europe
Cambridge: Cambridge UP 2004

* * * * * * * * * *

以前、ピーター・バークの書きものにはケチをつけたが、これは良書。原著でいくらか読んでいたが、早くも翻訳が出た。岩波側から打診があったようだが、訳者の選択も適切。これの著者。

ルネサンス期以降の言語社会史の概論として、日本語でもいくつか読めるものはある。しかし歴史家の書いた本書はそれらとは一線を画す。言語学的な音韻変化やつづりに関する記述は極力避ける一方で、歴史資料に中に見える言語に対する膨大な数の証言を引用している。バークは、言語学者が強調しがちな言語そのものに内在する変容力(リーグルの芸術意思にならって言語意思とでも言えばいいのかね)ではなく、言語を用いる人間の意思や思想、そしてその背景となる政治権力に注目する。いずれにせよ、言語思想を通覧したエーコの名著『完全言語の探求』とならんで、近世言語研究の必読書となるだろう。

同様の著作は中世に関しても書かれるべきである。もっとも近いのはフィリップ・ヴォルフかアルノ・ボルストの著作であろうが、そこではロマンス系言語とゲルマン系言語(北欧は除く)に限定されていた。中世は近世にも増して言語の多様性が著しい。近世の統一言語としてラテン語が挙げられるが、中世はこのラテン語すら地方や階層ごとにまちまちである。中世ラテンの概観はこちらこちらで得られるが、バークの著作のようなラテン語の言語社会史ができれば面白いだろう。ひょっとすると古代に関してはあるのかもしれない。

ところで本書は地名を現地読みしようと試みている。事例が全ヨーロッパに渡っているので、大変な作業であっただろう。しかしウプサラがエプサラ、スコーネのルンドがレントになっているのはなぜなのか。実際にそんな発音はしないし、日本でそのようなカタカナ読みを採用している本を私は知らない。

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