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北方民族文化誌 [Sources in Latin]


オラウス・マグヌス(谷口幸男訳)
北方民族文化誌(上)(下)
渓水社 1991-92年 645+671頁

第1巻 北欧の風習、自然、軍事
第2巻 北方の驚くべき自然
第3巻 北方の人々の迷信と悪魔崇拝
第4巻 森の異教徒およびその隣人の戦いと習俗
第5巻 巨人
第6巻 鉱山と金属
第7巻 武器、戦争の習慣、原因、戦闘の用心
第8巻 支配者の身分と官吏と軍制
第9巻 野戦
第10巻 海戦
第11巻 氷上の戦い
第12巻 北方の建築
第13巻 農業と人の生活
第14巻 北方の人々のさまざまな状態
第15巻 さまざまな人間の訓練
第16巻 教会の規則
第17巻 家畜
第18巻 野生の動物
第19巻 鳥
第20巻 魚
第21巻 怪魚
第22巻 昆虫

付録
解説
索引

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『アイスランドサガ』、『エッダ』、『デーン人の事績』に続く、谷口の不朽の成果。日本における北欧学は、これら谷口の業績にその大部分を負っている。さらに、北欧中世を代表するある作品の訳業も既に終わり、あとは出版社側の作業を待つだけと聞いているが、いつのことになるのだろう。それは日本の知的水準の上昇のために、何をおいても公刊せねばならない作品である。

オラウス・マグヌス(1490-1557)はリンシェーピングの貴族家門に生まれる。兄ヨハネス・マグヌス(1488-1544)は、追放されていた前大司教グスタフ・トロッレに代わってグスタフ・ヴァーサに指名された、最後のウップサーラ大司教。1544年のヨハネスの死後、オラウスがその地位を継承するが、スウェーデンでは宗教改革を経て既に大司教座が廃止されていたため、ローマの聖ビルギッタ修道院に身を置き、トレント公会議への出席等、教皇庁からの仕事を請け負った。

兄弟とも郷土の過去に関心を持ち、弟はこの「Historia de Gentibus Septentrionalibus」(1555)を、兄は「Historia de omnibus Gothorum Sueonumque regibus」と「Historia metropolitanæ ecclesiæ Upsaliensis」を、いずれもローマで公刊した。

この兄弟の生涯と歴史記述に関する、最もアクセスしやすい研究書として、
Kurt Johannesson, The Renaissance of the Goths in Sixteenth-Century Sweden: Johannes and Olaus Magnus as politicians and historians, tran. by James Larson, Berkeley: University of California Press, 1991, xxi+282 p.

いわゆる「ゴート・ルネサンス」の研究書であり、スウェーデン語原書は1982年に公刊された。イタリア・ルネサンスは古典古代に規範を求めたが、北欧がその誕生地と信じられたゴート族の足跡を辿るゴート・ルネサンスは、古典古代とは異なるアイデンティティを北欧史の過去と知識人の判断基準に付け加えた。一種の対抗アイデンティティ創出運動だとは思うが、まだ十分な研究がなされているわけではなく、コペンハーゲンやウップサーラには検討されるべき未刊行の写本も眠っている。ここにはルーンの起源も加わるはずであるが、嘆かわしいことに現地での研究は皆無に等しい。

写真はオラウスによる著名な北欧地図「Carta Marina」(1539)。その模写は、ウップサーラの王立図書館カロリーナの定番のお土産となっている。千円もしなかった。なおこの図書館に入って右手、薄暗い小部屋に、ウルフィラのゴート語訳聖書「Codex Argenteus」が常設展示されている。

日本とは驚くべき国で、手がかりが聖書に限られるゴート語の研究まである。
村石凱彦編『写真版ゴート語聖書 = Codex Argenteus』(芸林書房 2001), 1053頁
高橋輝和『ゴート語入門 改訂増補版』(クロノス 1999), ix+146頁
千種眞一編『ゴート語辞典』(大学書林 1997), ix+767頁
千種眞一『ゴート語の聖書』(大学書林 1989), x+214頁


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