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『芸術新潮』4月号「イギリス古寺巡礼」 [Arts & Industry]


文:金沢百枝/撮影:筒口直弘
「イギリス古寺巡礼 中世の美をたずねる旅」
『芸術新潮』2007年4月号 14-118頁

サウスイースト地方:大聖堂とフィッシュ&チップス
 イギリス・ロマネスクを知るために1:五つの波
サウスダウンズ地方:「白い国」の海へ
 イギリス・ロマネスクを知るために:三つの目印
コッツウォルズ地方:テムズと黄葉と窓辺の紅茶
 イギリス・ロマネスクを知るために3:英国中世のライフスタイル
 ちょっと道草:イギリス料理をつくる、たべる
ウェルシュボーダーズ地方:実りゆたかな国境をゆく
 イギリス・ロマネスクを知るために4:洗礼盤がおもしろい
イーストアングリア地方:海を渡ってきた丸塔
 イギリス・ロマネスクを知るために5:「聖なる木」が多い理由
ノーサンブリア地方:荒野をこえて

* * * * * * * * * *

このような特集を組むことは以前から聞いていたが、ようやく書店に並んだ。
本誌一部を送ってくれた友人へ、お礼を申し上げます。
ここを見ているかどうかは知りませんが。

ロマネスクといえば、私はどうしてもフランスが思い浮かぶ。エミル・マールが、タンパンで著名なヴェズレーのサント・マリ・マドレーヌ教会を、その著書の中で前面に押し出したせいであろうか。だが、仮に、空を衝くかのごとき尖塔と、その尖塔の重みを支えるために編み出された(んだよな)リヴ・ヴォールトを、建築構造上の特徴とする建築様式をゴシック建築とするならば、その様式が確立する以前に建設された教会群は、大方がロマネスク建築ということになる。ゴシック建築が出現し始めるのが12世紀であると理解すれば、理論上はそれ以前にラテン・キリスト教圏に参入していた地域であれば、どこにでもロマネスク建築は存在するということになる。べつに、イギリスにロマネスクがあったところで、何も不思議ではない。

説明文を担当した金沢によれば、イギリス・ロマネスクを特徴付ける指標として、1.交差アーチ、2.ビークヘッド(鳥の頭の彫刻)、3.ギザギザ(文様)をあげることができる。いずれも実用とは必ずしも関係なく、一言で言うならば余計な「装飾」である。「イギリス・ロマネスクの「飾り好き」は、物語表現を好んだ古代ローマの影響が大陸の国よりも小さく、装飾を好んだケルトやゲルマンの文化を色濃く受けついでいるせいでしょう」(51頁)。さまざまな民族がそれぞれの文化を積み重ねていくことによって現出したイギリスと言う空間に生まれた、イギリス・ロマネスク。島国ゆえに他者との接触も多く、また島国ゆえに他者から隔絶されている。その二律背反的なあり方の中にこそ、イギリスらしさを生み出す何かがあるように思う。その精華が、アングロ・ノルマン期に生まれたロマネスクなのかもしれない。

壮麗なゴシック建築に隠れるように、ひっそりと今に伝わる建築そのものも味わい深いのだが、私の興味をそそるのは、洗礼盤、持ち送り、柱頭に彫りこまれる彫刻群である。なんというか、遊び心満載で、笑いを誘う。建築職人たちは、どういうつもりでこのような彫刻をしたのだろうか。

ノーサンブリアの章では、ヴァイキングの影響を受けた美術がいくつか紹介されている。ただ、ヴァイキング美術は日本でほとんど紹介されたことはない。現在一番新しい小学館の美術全集にも、ヴァイキング美術の項目はなかったように記憶している。ヴァイキング・シップの装飾、ルーン石碑に残る線描、手工芸品の複雑な文様など、見るべきものはたくさんある。一度、ヴァイキングの美術についてどこかで特集を組んでくれたらなあと思う。

1978年以降、アングロ・ノルマン研究の立役者アレン・ブラウンが中心となり、毎年バトル修道院でアングロ・ノルマンに関する研究集会が開かれている。その会議録である「Anglo-Norman Studies」には、毎回必ずアングロ・ノルマン期の建築に関する論考が掲載される。これまでコピーをとったことすらなかったのだが、いくつか読んでみようかという気になった。

本特集ではイギリスの伝統料理も紹介されている。かつてイギリスの飯のまずさは有名だったが、近年、小じゃれた味付けもできるようになったらしい。それを「ガストロ・パブ」というそうだ。先日オックスフォードを訪れた知友は、「パブの食事がおいしくなっていてショックを受けた」と言っていた。ニンジンやジャガイモをボイルしただけのそっけない付けあわせが「イギリスらしさ」であったのに、ということらしい。もっとも、わたくしがコペンハーゲンに滞在していた時、現地の友人から、イギリスの飯がなぜまずいのかについて別の説明も受けた。「デーンの血が混じってるところはどこもまずいんだよ」。デンマークをはじめ、北欧の料理もお世辞にも洗練されているとはいえないからである。最近は随分良くなったと聞くが…


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