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Cnut. England's viking king [Medieval Scandinavia]


M. K. Lawson
Cnut. England's viking king.
London: Tempus, 2004, 254 p.

List of genealogical tables
Preface to the second edition
References and abbreviations

Introduction
1. Denmark, England and the Conquest of 1016
2. The Sources
3. Cnut, England and Northern Europe, 1017-35
4. Cnut and the English Church
5. The Danes, the English and the Government of England, 1017-35
Conclusion

Appendix 1: The Anglo-Saxon Chronicle C, D and E Texts, 1017-35
Appendix 2: Brief list of royal charters and writs, 1017-35
Appendix 3: The production of royal charters and writs, 1017-35
Appendix 4: A charter of Cnut from 1018
Appendix 5: The size of Danish ships

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Genealogical tables
Index

* * * * * * * * * *

クヌート(-1035)は、高校の教科書出でであう数少ないヴァイキングの固有名詞である。父スヴェンとともにイングランドを転戦し、父亡き後はヴァイキングの首領としてイングランド軍と戦い、1017年にイングランド王として迎えられた。彼の即位は、父スヴェンと異なり、単なる玉座の強奪ではなく、イングランドの即位儀礼にのっとった正式の即位である。1018年には、デンマーク王であった兄ハーラルの死を承け、デンマーク王も兼ねた。ここにイングランドとデンマーク双方の二重国王してのクヌートが生まれるが、1028年、ノルウェー王であったオーラヴ・ハーラルソンを追放し、ノルウェー王位をも手中にした。こうしていわゆる「北海帝国」が成立する。しかしクヌートはその生涯の相当時間をイングランドで過ごし、そのほかの地域には権限を委譲した代理人を、具体的にはデンマークには在地有力者ウルフを、ノルウェーには妻エルフギフとその息子スヴェンを派遣した。分割統治といってよい。

本書はこのクヌートに関する、殆ど唯一の分析的伝記である。1993年にロングマンから公刊されたが、本書はそれに殆ど変更を加えていない実質的復刊である。著者はオックスフォードで学位を取得したものの、その後ポストを得ることなく、在野の研究者の地位にとどまっている。行政機構の研究を専門とし、
M. K. Lawson, The collection of Danegeld and Heregeld in the reigns of Aethelred II and Cnut, in: English Historical Review 104(1984), p. 721-38.

という名論文でデビューした。アングロサクソン期の租税徴収制度が、ヴァイキングの襲撃下にあってもいかに効率よく機能していたのかを論証した論文で、アングロサクソン時代の行政史研究においてはもはや古典に属する。それゆえ、本書もクヌート統治下のイングランドにおける行政機構に多くのページが割かれており、そしてその部分が最も読み応えがある。もう一つメリットあげるならば、クヌート治世期の教会制度に関わる部分であろうか。

しかしながら、私のように北欧に関心のある向きからすると、説得されない部分も少なからずある。というより、本書に説得されなかったから私は北欧を調べてみようと思ったのである。端的に言えば、本書は「イングランド王としての」クヌートを描き出しているのであり、本来彼が属していたはずのスカンディナヴィア世界のことは、無視をしているわけではないにせよ、極めて一般的な分析にとどまっている。北欧などクヌートにとってあたかも付随的要素であるかのごとき扱いであるが、私にはそうは思えない。クヌートはイングランド王として即位した後、確かにイングランドに長期とどまることになったが、北欧を必ずしも放置していたわけではなく、それどころか問題が起これば早急に帰還して解決を図っている。北欧史という枠で考えれば、クヌートがイングランド王となることで、従来保たれていた北欧内政治のバランス・オブ・パワーは傾いたのであり、それゆえに、北欧各国内での政治プロセスも急加速している。このあたりの問題は、1911年に既にラウリッツ・ヴェイブルの名著が明らかにしたところであるが(もちろんこの本には問題点も少なからずあり、彼の結論をそのまま受け入れることはできない)、参考文献で挙げられているにもかかわらず、必ずしもその成果を吸収しているとは言いがたい。その後も北欧での研究は、アングロサクソン史ほどではないにせよ確実に進歩しており、「環北海支配者としての」クヌートを描き出そうとするならば、北欧側の研究もフォローすべきであった。

実はそのあたりのバランスは、100年前に出た著作のほうがよい。
Laurence M. Larson, Canute the Great 995(circ)-1035 and the rise of Danish imperialism during the Viking Age. New York / London: G. P. Puttam's Sons, 1912, 375 p.

ラーソンはノルウェーからの移民であり、ヴィスコンシン大学でアングロサクソン期の行政制度に関する研究(The King's Household in England before the Norman Conquest)で博士号を取得した。彼の指導教員は、まだハーヴァード大学に移籍する前のチャールズ・ホーマー・ハスキンズである。ノルウェー語が母語であるため、ヴォソーエやステーンストロップといった当時のヴァイキング研究の第一人者の成果も十分に吸収しており、今読んでもはっとさせられることも多い。

いずれにしても、クヌートの研究はまだまだ開拓の余地がある。
Alexander Rumble(ed.), The Reign of Cnut. King of England, Denmark and Norway. London: Leicester UP, 1994, 341 p.

が直近の研究文献であるが、これだけでは不十分であり、北欧というコンテクスト、ブリテンというコンテクスト、そして両者を接合した北海というコンテクストで論じられねばならない。しかしそこまでもっていくためにはルーン石碑、スカルド詩、国王証書といったテクストに関する基礎的な研究が不可欠である。私見によれば、いずれもまだ達成されてはいない。


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