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The Political Thought of The King's Mirror [Medieval Norway]


Sverre Bagge
The Political Thought of The King's Mirror(Mediaeval Scandinavia Supplements 3).
Odense: Odense UP 1987 253 p.

Introduction
Ch. 1: The foundation of the king's power
Ch. 2: The king as judge
Ch. 3: The ideal king
Ch. 4: The king and the church
Ch. 5: The king and the people
Ch. 6: The concept of the state
Conclusion
Appendix: The story of the Fall in The King's Mirror

Index of names
Bibkiography and abbreviations

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1942年生まれの著者スヴェーレ・バッゲは、いまやノルウェー、いや北欧を代表する中世史家である。ベルゲン大学のクヌート・ヘッレのもとで研鑽を積み、名誉教授となった彼の後を継承してベルゲン大学の正教授の地位にある。若い頃から中世学者としての頭角をあらわし、ヘッレとともに中世の史料集を編む一方で、ノルウェーの『歴史学雑誌』上に、盛期中世のノルウェー王権に関する極めて重要な論考を次々と発表した。関心の中心は国制にあり、そういった意味では伝統的な良質のノルウェー中世史学の学統に連なる。かつてはノルウェー語で執筆していたが、本書を境に英語による研究が格段に増えた。

本書は著者の1980年にベルゲン大学に受理された博士号取得論文の英訳版である。英訳は著者自身が行い、ピーター・フートがリヴァイズした。本博士論文の分析対象となっている『王の鏡(konungs skuggsjá / Speculum regale)』は、1250年頃に、マグヌス改法王(治世1263-80)の教育のために、その父ホーコン・ホーコンソンの宮廷周辺で準備された対話形式の作品である。『王の鏡』という史料類型の歴史はカロリング期までさかのぼるが、このマグヌス用の『王の鏡』は、ノルウェーにおけるラテン・キリスト教文化摂取の一事例であり(ただし現地語という点には留意)、他のヨーロッパ地域の研究者からも注目されてよい。近年この史料に関する論文集が刊行された。
J. E. Schnall & R. Simek(hrsg.), Speculum regale. Der altnordische Königsspiegel(konungs skuggsjá) in der europäischen Tradition. Vienna 2000.

著者は、盛期中世の専門家であるが、その前後の時代に対しても、スカンディナヴィア全体の政治動向を視野に収めた斬新な研究を公表している。
Sverre Bagge, Christianization and state formation in early Medieval Norway, Scandinavian Journal of History 30-2(2005), s. 107-34.
Id., Aims and means in the Inter-Nordic conflicts 1302-1319, Scandinavian Journal of History 32-1(2007), s. 5-37.

バッゲの議論は確かにスカンディナヴィア史全体の地平を拓くだけの力があるが、やや単調かなとも思う。政治、経済、宗教、文化とあらゆる面に目配りをしているが、それゆえにか、大陸系の研究が醸す立体感を感じることができない。スカンディナヴィア全体を視野に入れる同じタイプの研究者であったアクセル・クリステンセンには、そういった深さを読み取ることができたのだが…。クリステンセンは一種のナショナリストであったように思うが、ナショナリストにはナショナリストのよさがあるのかもしれない。私も必ずしも一国史を標榜するものではないが、国家制度や国家形成を対象としている以上、「国」の重みはどこへ議論が収束しようとも、ついてまわる。世界システム論がはやりだした頃から、国家論とシステム論の間で必然的とも言える乖離が見られるようになったが、それは不幸な道行であろうかと思う。

ユーラシアの1セクターとしてのヨーロッパ半島では、ローマ帝国の解体後、中世という時代をつうじて、他の地域では類例のない中小国家の乱立が生起した。それが特殊ヨーロッパ的な現象であるのかどうか、他地域のことをよく知らないのでなんともいえないが、かりにそうであったとすれば、スカンディナヴィア世界は、ユーラシア世界におけるヨーロッパ・セクターとイスラム・セクターをつなぐ一つの回路でもある。具体的にどのような役割を果たしたのか、少し考えてみてもよいのかもしれない。

ところで、『王の鏡』という史料類型は、ヨーロッパのみに限定されるものなのであろうか。帝王学はどの世界においても重要な要素であるように思うが、どうなのでしょう。


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