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ヨーロッパをさすらう異形の物語 [Classics in History]


ヨーロッパをさすらう異形の物語(上)(下)
サビン・バリング=グールド(池上俊一監訳)
柏書房 2007年 328+344頁

監修者まえがき
上巻あらすじ
第1話 さまよえるユダヤ人
第2話 プレスター・ジョン
第3話 占い棒(ダウジング)
第4話 エペソスの眠れる七聖人
第5話 ウィリアム・テル
第6話 忠犬ゲラート
第7話 尻尾の生えた人間
第8話 反キリストと女教皇ヨハンナ
第9話 月のなかの男
第10話 ヴィーナスの山
第11話 聖パトリックの煉獄
第12話 地上の楽園
第13話 聖ゲオルギオス

下巻あらすじ
第14話 聖ウルスラと一万一千の乙女
第15話 聖十字架伝説
第16話 シャミル
第17話 ハーメルンの笛吹き男
第18話 ハットー司教
第19話 メリュジーヌ
第20話 幸福の島
第21話 白鳥乙女
第22話 白鳥の騎士
第23話 サングリアル(聖杯)
第24話 テオフィロス
監修者あとがき

* * * * * * * * * *

「19世紀の好事家の本だろ」と読む前は馬鹿にしていたが、読み通してみてその考えを改めた。本書は現在歴史家のジャン・クロード=シュミットや文学史家のフィリップ・ヴァルテルが精力的に進めている民俗学的中世研究の嚆矢である。個人的には「聖十字架伝説」に強く惹かれるものがある。紀元千年前後に聖十字架信仰が一時に高まったことがあって、ヨハンネス・フリートなどもそのことに触れているが、私にはいまいちその理由がわからないからである。

著者バリング=グールド(1834-1924)はデヴォンシャのルートレンチャードに家を構える。ケンブリッジ大学のクレア・カレッジで学位を取得し、牧師業の傍ら生涯に執筆した著作はおよそ五百。一日に一体何枚書けばそのような数に到達するのかわからないが、常軌を逸している。著作以外には関心がなく、息子に向かって「おまえは誰だ」と言ったというエピソードもあながち嘘ではないように思えてしまう。そもそもいくら田舎とは言え牧師はそんなに暇なのか。それはともかく民話の記録もあり、小説もあり、研究書もありとその多才ぶりはいかにもヴィクトリア朝の文人である。いまやほとんどは過去の著作となってしまったのだろうが、編者池上によれば、本書と狼男の研究は今でも基本書として引用されているという。
S. Baring-Gould, The Book of Werewolves: Being an Account of Terrible Superstition. 1865.

実はこのバリング=グールド、二十代でアイスランドを旅行しており、その時の記録が刊行されている。
S. Baring-Gould, Iceland, Its Scenes and Sagas. 1861.

邦訳書の中にも数多くのアイスランドの事例が引かれているが、それはこの旅行のおかげである。なおこの旅行記は今でも購入することができる。というか、どうもこの数年バリング=グールドを見直そうとする動きがあるようで、彼の代表的な著作がいくつか再刊されている。私自身興味が出てきたのでその伝記も含めてぼちぼち買い集めているが、まとめるのはいつのことになるやら。

バリング=グールドにはいくつか翻訳がある。
今泉忠義訳『民俗学の話』(大岡山書店 1930)
「グラウムル」アイザック・アシモフ&チャールズ・G・ウォー編(池央耿訳)『クリスマス13の戦慄』(新潮文庫 1988)
「死は素敵な別れ」中野善夫・吉村満美子編訳『怪奇礼讃』(創元推理文庫 2004)
→読んでみた。幽霊話で怪奇といえば怪奇だが、どちらかといえば笑い話。

筑摩から出ているシャーロックホームズ全集の監修者であるウィリアム・バリング=グールドは孫。シャーロッキアンは世界を代表するオタク。


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