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学問への旅 ヨーロッパ中世 [Classics in History]


木村尚三郎編
学問への旅 ヨーロッパ中世
山川出版社 2000年 285頁

序文(木村尚三郎)
I 王と貴族
- スコットランドの形成と国王たち(有光秀行)
- エドワード1世のウェールズ戦争(赤澤計眞)
- シスナンド・ダビーディス 11世紀スペインの一貴族の生涯(林邦夫)
- 中世シチリアのノルマン王と官僚、貴族たち(高山博)
- 中世ハンガリーのクマン人とラースロー4世(鈴木博和)
- ジャック・クールの時代 15世紀フランスの商人と国家(堀越宏一)
- ウェイクフィールド橋上の礼拝堂 橋と伝説をめぐって(新井由紀夫)
II 知識人と民衆
- ランスのヒンクマールと「一日参集会」(甚野尚志)
- ラウール・グラベールと「紀元千年の恐怖」(藤田朋久)
- ニクラスハウゼンの笛吹き ハンス・ベームと中世後期の宗教的民衆運動(相澤隆)
- フランシスクス・ザバレッラと公会議主義 コンスタンツ公会議の時代(池谷文夫)
- ユマニスト、レオン・バッティスタ・アルベルティ(池上俊一)
- ファン・ルイス・ビーベスと中世末期の貧民救済論(河原温)
- ミージノフ家をめぐって 16世紀ロシアの商工業者たち(細川滋)

あとがき(相澤隆・河原温)

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古本屋の店頭の均一本コーナーに無造作に積み上げられていたので買ってみた。編者は序文で「論文集」としているが、あとがきの「エッセイ」という表現のほうが正しい。歴史学の初学者に向けた、注釈のない学術的エッセイ集である。

エッセイなので何かを論証しているわけではない。研究余滴というか、副産物である。そういった意味では肩の力を抜いて読むことができるが、取り上げられているテーマは結構面白い。読み応えがあったのは甚野と藤田、目新しかったのは有光と鈴木、視野が広がったのは新井と相澤である。もちろんそれ以外が駄目というわけではなく、各人の別の文章ですでに読んだことのある内容であったというだけである。鈴木の話に出てくるハンガリーのクマン人はノラ・ベレンドの博士論文で論じられているが、東欧世界の特殊性を考慮するにあたって外すことのできない要素である。東欧はつねに東方からの脅威にさらされていたという点で西欧世界とは大きな違いがあり、ヨーロッパの全体像を再構成する際にはキーポイントになるように思う。たぶん東欧史家はみなそう思っているのだろうが、西欧史家はあまり関心がないような気もする。東欧をすっ飛ばしてイスラム、モンゴル、トルコに話が移りますからね。まずいと思うんだけれども。

すでに他界した木村は東京大学の教養部で長年中世史を講義していたが、大学院向けのゼミナールも担当していた。執筆者はいずれもその時の教え子である。木村はいくつかの専門論文を公にし、ジョルジュ・デュビーのいるエクスから帰国したのちは、ソフトアカデミズムの権化のような存在となった。が、その語り口はこと一般向けの啓蒙活動には絶大な力を発揮した。私は直接彼の話を聞いたことはないが、大学時代に木村の講義を聴講した先輩が「めっちゃおもろかった」と言っていた。先輩は理学部である。理科系の人間にすら面白いといわしめる講義ができれば大学教師としては本望であろうと思う。


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