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ギリシア思想とアラビア文化 [Intellectual History]

ギリシア思想とアラビア文化.jpg
ディミトリ・グタス(山本啓二訳)
ギリシア思想とアラビア文化 初期アッバース朝の翻訳運動
勁草書房 2002年 xvi+264頁

日本語版への序文
まえがき
序章 社会的・歴史的現象としてのギリシア語からアラビア語への翻訳運動
第1部 翻訳と帝国
第1章 翻訳運動の背景
第2章 マンスール
第3章 マフディーと息子たち
第4章 マームーン
第2部 翻訳と社会
第5章 応用知識と理論的知識に役立つ翻訳
第6章 保護者、翻訳者、翻訳物
第7章 翻訳と歴史
結び
付録 アラビア語訳されたギリシア語の著作

参考文献と略語
イスラーム文明における翻訳運動の意義を論じた研究文献(年代順)
訳者あとがき
人名索引
事項索引

Dimitri Gutas
Greek Thought, Arabic Culture: The Graeco-Arabic translation movement in Baghdad and early Abbasid society(2nd-4th / 8th-10th centuries).
London: Routledge 1998.

* * * * * * * * * *

イスラム世界の王朝の変動の中に翻訳活動を位置付けた歴史学の本なので、歴史家が読んでも退屈しない。

いわゆる12世紀ルネサンスがアラビア世界からアリストテレスを翻訳することではじまったことはよく知られている。本書はその前の段階、つまりギリシア語からアラビア語への翻訳活動についてのお話である。

一つ認識を改めさせられたことがある。12世紀ルネサンス論のおかげで、イスラム世界の知的水準の高さは多くの人が理解している。がしかし、その高さは、バグダードがアリストテレスを保存していたからという事実に基づく。よく考えたら失礼な話である。アリストテレスという西洋知の精髄を翻訳したからえらいのだという、これまた西洋の優越感がそこに透けて見えるような気がしないでもない。アラブの皆さん、うちらの知識ってすごいでしょ、保存してくれてありがとうね。

がしかし、バグダードで翻訳されたのは、何もギリシア語だけではない。パフレヴィー語やサンスクリットもまた翻訳の対象であった。イスラムの知の認識に従えば、自分たちより古い知は、それがどの地域であれどの言語であれ、保存し、翻訳し、注釈し、そして新たな知識を生み出す礎とするにふさわしいわけである。古代ギリシアだけが特別な存在であるわけではない。ここがキリスト教圏との大きな違いである。コーランも両聖書に敬意を払っているが、同じ理由であるのかもしれない。

あとがきに、アラブ世界では科学史研究が生まれないとあった。大変興味深い指摘だが、その理由が何であるのかは書いていない。なんで?
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