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ヴィンランドサガ [Medieval Scandinavia]

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幸村誠
ヴィンランドサガ
講談社 現在6巻まで

ちょっと話題になったので最新刊まで大人買い。研究費ではなく私費ですよ。昔マガジンでやっていたのは知っていたが、いつの間にかアフタヌーンに移っていた。無辜の虐殺や強姦などお子様に優しくない場面も多いので、青年誌ということなのか。

11世紀にフランク王国がまだあるというのはご愛嬌。ほかにもそうかなあと思うところはあるけれども、いったいどうやって調べたのと思うほど、生活の細部にいたるまでよく書けている。日本語で読めるヴァイキング関係の書物は極めて限られているが、著者は英語ができる風でもない。誰かブレーンがいるのかしら。なお、ヨームスヴィーキングが実在したかどうかは極めて疑わしいです。

6巻でヘタレ王子クヌートが、父スヴェン打倒を掲げて覚醒。ちなみにここにあげた4巻の表紙を飾る赤服の優男がクヌート。皆に「姫様」扱い。なお、最新刊にいたるまで、クヌートがオトコであるという確実な証拠を見つけることはできない。まさかクヌートは男装のオンナでしたとかいうマニア向けのオチじゃないだろうな。ちなみにクヌートの母(スヴェン双髭王の妻)はポーランド公ミエシュコの娘。ばあさん(ハーラル青歯王の妻)は西スラヴのオボドリート族長の娘。イェリングはスラヴの血が色濃く流れる。だからこの時代の北欧におけるスラヴの地位は、たんなる奴隷の供給地ではない。

なお、クヌートに関する最新の研究がもうすぐ刊行される。ブリルなので例によって2万円を超える。絶対ペーパーに落ちないし、かといって買わないわけにはいかないのがむかつく。
Timothy Bolton, The Empire of Cnut the Great: Conquest and Consolidationof Power in Northern Europe in the Early Eleventh Century(Northern World 40). Leiden: Brill 2008.

仮に今若い人に北欧中世の本が売れるとすれば、この『ヴィンランドサガ』のおかげである。そういった意味では北欧中世で飯を食っている人は(ほとんどいないけど)、この幸村氏に感謝すべきである。国史家は司馬遼太郎を嫌い、シナ研究者は吉川英治を厭い、ローマ史家は塩野七海を避けるが、歴史作家がいなければおそらく多くの人に歴史への関心はうまれない。小説が現実と違うのは当たり前なのだから、政治利用でもなければ歴史家は鷹揚に構えていればいいのである。ネタニマジレスカコワルイとまでは言わないが、歴史家は歴史小説の意味をもっと考えたほうがいいんじゃないの。資料の裏づけのできないことを想像でものを書いてはいけないというのであれば、ベルナール・ギーにモノをしゃべらせたウンベルト・エーコだってアウトだよねえ。でもエーコの悪口は誰も言わないのはなぜでしょう。

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