イスラーム世界の創造 [Historians & History]
羽田正
イスラーム世界の創造(東洋叢書13)
東京大学出版会 2005年 316+xx頁
序論 「イスラーム世界」という語のあいまいさ
第一部 前近代ムスリムの世界像と世界史認識
第1章 前近代ムスリムの地理的知見と世界像
第2章 前近代ムスリムによる世界史叙述
第二部 近代ヨーロッパと「イスラーム世界」
第1章 マホメット教とサラセン人(18世紀以前)
第2章 「イスラーム世界」の創造
第3章 東洋学と「イスラーム世界」史研究
第三部 日本における「イスラーム世界」概念の受容と展開
第1章 「イスラーム世界」概念の成立以前
第2章 日本における「イスラーム世界」の発見
第3章 戦後の「イスラーム世界」認識
終論 「イスラーム世界」史との訣別
おわりに
文献一覧
索引
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「イスラーム世界」概念の問い直しの書。あちこちに書かれた論文の修正であるが、全体として一貫性はある。
「イスラーム」ときいて私たちは判ったような気になるが、それでは定義してくださいといわれると、うーんとなってしまう。昔講義で、「イスラームとは宗教ではなく、生活全体を包み込んだもの」と習ったような気がしたが、より曖昧になっただけでよくわからない。
著者の専門は近世ペルシア史。現在のイランであるが、確かに宗教はイスラム教であるものの、言語はペルシア語。地域性を前面に出した場合、中央アジアやアフリカといっしょにすんなということになる。日本で言うイスラム史の中心は、あくまでアラビア半島からエジプトを中心とした地域であり、そこでの事例が、ややもすると一般化される傾向はある。まあ、イランなんかやってると、不満も出るわな。でも、ペルシア語の重要性は、杉山正明も書いていた。
最近流行の歴史記述の再検討も読む価値はあるが、私にとって興味深かったのは、第一部。アラブ・イスラム世界では、アッバース朝がバグダッドに学術機関を置いた8世紀から11世紀までを、古典時代と呼ぶ。そこでは様々な古代の知識が集積されたが、その様態は、この本に余すところなく描かれている。しかしながら翻訳のみならず、実際的知識の進展も図られた。なかでも地誌は凄まじい。イブン・ファドラーンやイブン・ハウカルらの旅行記述は、アッバース朝の世界認識を大いに広げ、のちのイブン・バットゥータの『大旅行記』に結実した。
ヨーロッパはいまだ、ろくなTO図すらなかった時代である。あまねく世界を知ろうとするアッバース朝知識人にしてみれば、当時のヨーロッパなど、ユーラシアの片田舎で、民族学的観察の対象であるに過ぎない。こうしたイスラーム世界の地誌記述はとても大切な研究対象であるが、まだ、十分にやられているとはいえない。北欧に関しても、イブン・ファドラーンをはじめ、とても重要な記述が散見される。
うちの親は、イスラム教のことを、フイフイ教とか言っていた。フイフイってなんだ?回教の事か?