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ロシアの源流 [Medieval History]

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三浦清美
ロシアの源流 中心なき森と草原から第三のローマへ(講談社選書メチエ274)
講談社 2003年 270頁

序章 宗教国家としてのロシア
第1章 「ロシア」と「ルーシ」
第2章 トヴェーリ公ミハイルの野望
第3章 モスクワ公イワン・カリターの秘策
第4章 最後の異教国家リトアニア
第5章 府主教座簒奪戦争
第6章 中世共和政都市の栄光と苦悩
第7章 モスクワは第三のローマである

あとがき

索引

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新幹線の往復で読了。

中世後期ロシア史を、教会政治の観点から再構築するというのが本書の意図であろうか。類書がないだけに、そして西洋史家はロシア語に接近することのできる人間が限られているだけに、貴重で有用な情報が満載されている。15世紀の概観はヴェルナルツキで、ノヴゴロドの知識は松木の論考で、正教については森安の著作である程度は仕入れていたが、トヴェーリ公国やリトアニアからの観点というのは本書独自であるため、知識の補完となった。といっても、ロシアについてはまだまだわからないことばかりなんですが。

分析的というよりは叙述的。著者は東大の露文を出た文献学者だが、この仕事は歴史学者としてのものであると理解してよいと思う。一読して思ったことを。
1.副題の「中心なき森と草原」は、中世ロシアを考えるためのとても大事な人文地理学的な要素であるが、これが分析に全く生かされていない。
2.同じく副題の「第三のローマ」という政治思想上の概念は、中世後期から近代にかけてのロシア正教を考える上で欠くことのできない理念であるが、これに対する考察が数頁しかない。
3.「モスクワ諸侯-家臣団-全ルーシ府主教座-荒野修道院と修道士-農民が一繋がりにつながった」14世紀後半に「ロシア」が懐胎したとする著者の考え(152頁)はまことに興味深いが、このプロセスはもう少し詳述すべき。とりわけ荒野修道院という、おそらく特殊ロシア的な修道院のあり方についての考察が、あまりに短すぎる。
4.ロシア中世史の基本史料である「年代記」がいくつも引かれているが、そもそもロシア中世にとって年代記とは何であるのか、そして各年代記間の関係はどのようになっているのか、これは一章を割いて論じてもよい課題である。とりわけ文献学者である著者にとって最も得意な分野のように見えるのだが、そのような史料学的な考察はほとんど見られない。

ロシア史の中で本書がどのように評価されているのか私の知るところではないが、西洋しか知らない多くの中世学者は(ロシアは西洋じゃないよな)、東方世界のあり方にも関心を持つべきであるように思う。東と西は必ずしも離れていない。

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