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ヴァイキング [Medieval Scandinavia]

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荒正人
ヴァイキング 世界史を変えた海の戦士
中公新書 1968年 xii+179頁

まえがき
1.大西洋を越えて
2.民族の大移動
3.東方ルート
4.北ヨーロッパの神話と伝説
5.ヴァイキング的精神

* * * * * * * * * *

急遽必要となったが、書庫のどこに放り込んだか分からない。しかたなく、ネット古書店で購入。これで三冊めだ。2日で到着。とてもはやい。

歴史家で荒正人を知る者は少ないだろうが、『近代文学』同人にして、夏目漱石研究者。1913年に鹿島神宮のある茨城県鹿島に生まれ、東京帝国大学英文学科を卒業し、1979年死去。二人の娘も英米文学者。

かつてヴァイキングといえばこの薄い新書しかなかった。要するに専門家がいなかったのである。北欧を専門とする歴史家は少なく、きちんとした本をまとめる力のある者はさらに少ない。だからこそ、荒のような歴史学者ならざるものにお鉢が回ってきたといえる。かつての読後感はいかにも文学に携わる者らしいロマン主義的解釈、であったが、読み返すと、基本的にはロマン主義だが、案外そうでもないところもある。民族移動という観点から、かなり適切にヴァイキングの活動を記述している。文献目録で参考にしている研究も、北欧から流れてくる情報の少ないこの時代にしてはまとも。本人が北欧語が読めたとは思えないが、北欧語を勉強した形跡はある。

ヴァイキング活動の原動力として荒が挙げるのは「海の彼方への無限の憧憬」(167頁)である。根拠の一つは、若いころアメリカで働いたノルウェー人の存在である。20世紀にもなって海外へ、というところに、ヴァイキング時代との連続性を見ているようだが、端的にって、ちがう。彼らは別に行きたくて行ったのではなく、行かざるを得ないから行ったのである。19世紀から20世紀のノルウェーは、ヨーロッパで一二を争う最貧国である。人口は増えるが仕事はない。仕方なく、チャンスの国アメリカを目指したのである。国が豊かであれば、外に出る必要などない。一世代前のアイルランド人やイタリア人と同じである。アイルランド人やイタリア人が「海の彼方への無限の憧憬」をもっているとは到底考えられんがね。ついでに言えば、国策としてブラジルに送り込まれた日系ブラジル人もいるわけだが。アントニオ猪木とか。

それはともかく、本書は古典としての価値はある。しかし古典は古典に過ぎない。あたらしいものも必要である。

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