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イスラーム治下のヨーロッパ [Medieval History]

イスラーム治下のヨーロッパ.jpg
Ch-E. デュフルク(芝修身・芝紘子訳)
イスラーム治下のヨーロッパ 衝突と共存の歴史
藤原書店 1997年 348頁

序文 イスラームとヨーロッパ
1.略奪と侵略の時代
2.征服された国での新たな生活条件
3.アラブの風俗と習慣
4.地元民におけるキリスト教の存続と逸脱
5.自然・労働・喜び
6.自由を失いし人びと
7.ムスリムとキリスト教徒自由民の共存
8.イスラーム権力に協力するキリスト教徒
9.ユダヤ人の生活と行動
10.イスラームに改宗したヨーロッパ人
11.性格・習慣の相違―弾圧者と反乱者、国外移住者と被追放者
12.ヨーロッパのなかのムスリム都市とその文化的役割
結論

参考文献
関連略年表
訳者解説
索引

Charles-Emmanuel Dufourcq
La vie quotidienne dans l'Europe médiévale sous domination arabe
Paris: Hachette 1978

* * * * * * * * * *

例によって、アシェットの日常生活シリーズ。なぜ藤原書店がこれを出したのか不明。文明の衝突の脈絡だろうか。

碩学のよく出来た本。東洋学者ではないので、アラビア語が読めるわけではない。が、西洋側に立つわけではなく、レコンキスタを相対化し、日常生活という観点から、イスラム、キリスト、ユダヤという三つの宗教(もとをたどれば一神教で全部一緒だが)の混交が生み出した文化を描く。ピレネーからあちらはヨーロッパではないといわれるが、確かに、キリスト教をヨーロッパとする考えに立てば、ヨーロッパじゃないわな、イベリア半島は。

イベリア半島を「辺境」とする考えがあるが、私にはどうも馴染まない。東欧や北欧はまあいいよ。セネカやイシドルスを輩出し、ローマ法を継続させた西ゴート王国があり、イスラムを迎えてヨーロッパ半島随一の都市文化を誇ったコルドヴァをかかえ、12世紀ルネサンス以前よりアラビア知的文化の流入元となったイベリア半島。しかるのちにもアルフォンソ10世賢王がその名を轟かせ、アラゴン海上王国が地中海に勢威を伸ばし、果てはカトリック両王が大航海時代に向けてコロンブスに資金を与える。どこが辺境やねん。ここで村上司樹がある程度は書いていたけど、イベリア半島史の人はもっと主張してもいいんじゃないの。もちろん、あまりにアラビア文化の影響を強調するのもどうかと思うが。文化史として、マリア・ロサ・メノカル(足立孝訳)『寛容の文化 ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒のスペイン中世』(名古屋大学出版会 2005年)。これを真に受けると、中世イベリアはずいぶん楽園な世界のようだ。

この手の本を読んでいて残念なことが一つある。なんでユダヤ内部の文化を前面に出さないのか。本書はそれでもまだ触れているほうだが、ユダヤとの共存だとか迫害だとか、なぜユダヤを他者としてあつかうのか。ユダヤはキリスト教徒は別の歴史観念に立ち、知的また文化的貢献をしてきた。ラビ文献も本当は膨大にある。おそらく十分に手をつけられていないだけである。中世史家はユダヤ学者と対話はしているのだろうか。京大の勝又直也とか、すごいよ。

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