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ヨーロッパの形成 [Medieval History]

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ロバート・バートレット(伊藤誓・磯山甚一訳)
ヨーロッパの形成 950-1350年における征服、植民、文化変容
法政大学出版局 2003年 xvii+515+182頁

序論
第1章 ローマ・カトリック教世界の拡大
第2章 貴族の拡散
第3章 軍事技術と政治権力
第4章 征服者のイメージ
第5章 自由な村
第6章 新しい風景
第7章 植民都市と植民商人
第8章 ラテン・ヨーロッパ辺境における民族間関係(1)言語と法律
第9章 ラテン・ヨーロッパ辺境における民族間関係(1)権力と血統
第10章 ローマ教会とキリスト教の民
第11章 ヨーロッパのヨーロッパ化
第12章 ヨーロッパ拡張以後の政治社会学

索引
原注
引用文献
訳者あとがき

Robert Bartlett
The Making of Europe. Conquest, colonization and cultural change 950-1350.
London: Penguin Books Ltd, 1993

* * * * * * * * * *

個人的には結構な良書だと思うが、日本ではほとんど口の端に上らないねえ。中世ヨーロッパの概論のノートを作るときは、とても参考になると思うんだけど。なんでだろう。1993年度のウルフソン歴史書賞受賞作。ちなみに1972年の第一回受賞者はキース・トマス、2005年はこれね。イギリスで最も権威ある歴史学の賞だと思うが、受賞作の一覧を見る限り分析力と叙述力双方が要求されるようだ。

著者のバートレットは1950年生まれだからまだ若い。もともとオックスフォード大学でウェールズのゲラルドゥスに関する研究で学位を取得した。必然的に彼の関心は辺境に向く。スペイン史家のマッケイとの共編でMedieval Frontier Societiesという辺境論の基本論集も編んでいるし、そもそも奉職先がスコットランドのセント・アンドルーズ大学である。

本書のライトモチーフは入植である。叙述の起点である10世紀は、ノルマン・マジャール・イスラムの侵入期であるが、その波のような侵入が収まったのち、今度はキリスト教世界が拡大の主導権を握る。十字軍のコンテクストで辺境社会のキリスト教化はしばしば論じられるが、その結果として辺境社会が具体的にどのように変わったのかを論じたものは案外少ない。ただし、本書はあくまで「ヨーロッパ」つまりキリスト教ヨーロッパの形成論である。それはとりもなおさず中心からみた辺境論であり、辺境の自律性にはそれほど関心を払わない。だから悪いというわけではなくて、そういう立場だと思って読めばよい。気になる人は自分で勉強して書けばよろしい。

近年バートレットは新オックスフォード英国史の一冊としてEngland Under the Norman and Angevin Kingsを上梓した。800ページを超える大著だが、このまえブリテン史の偉い人が「よくできてる」と言っていた。目次から察するに、経験主義的な英国流全体史のようである。

訳者は英文学の方のようだが、内容を繰り返すだけのあとがきが無駄に長い。本書も「シャルルマーニュ大帝」という言い方をしているが、「カール大帝」とはいっても「シャルルマーニュ大帝」とは決して言いません。英語「Charles the Great」、独語「Karl der Grosse」、仏語「Charlemagne」なので、「シャルルマーニュ大帝」だと「カール大帝大帝」というようにかぶってしまう。最近なぜかこの奇怪な表現によく出会うんだけれども。

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