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神秘の中世王国 [Medieval History]

神秘の中世王国.jpg
高山博
神秘の中世王国 ヨーロッパ、ビザンツ、イスラム文化の十字路
東京大学出版会 1995年 iv+321+31頁

はじめに
1.魅惑する王国
第1章 きらめく過去への扉
第2章 羊皮紙に記された三つの言語
2. 神秘の中世王国
第3章 三人の王の物語
第4章 王国に住む人々
第5章 王の支配
3.地中海世界のプリズム
第6章 王国内に併存する異文化
第7章 異文化圏を行き交う人々
おわりに


あとがき
図版出典一覧
文献目録
人名索引

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個人的にはとても紹介しづらいが、必要があって読み返した。わたしが高山の著作の中で最も好きな本だし、多分一番読まれた本だろう。

いまさら言うまでもないが、高山は、イェール大学で博士号を取得後、1993年に『中世地中海世界とシチリア王国』(東京大学出版会)とその英語版を上梓した。本書は、かなりの部分この大著の要約であるが、随分と読みやすくなっている、さらに読みやすくなった(笑)、『中世シチリア王国』(講談社現代新書 1999年)もある。近年ではオックスフォードから出ているイタリア史の教科書にも寄稿している。

わたしにとって重要なのは第2章。ラテン、ギリシア、アラビア、ヘブライという4言語の書かれた墓碑の分析である。ノルマン・シチリアは極端な例であるが、境界地域には、このような複数言語併用事例がしばしば見られる。イングランドとスコットランドの境界であるとか、ラテン語とゴート語、あとハンガリーでも4ヶ国語のがあったな。中世ヨーロッパにおける教会の公用語はラテン語だが、生活は必ずしもそうではない。言語の混交は面白い問題だけど、各言語を習得しなければならないので、分析できるようになるまでなかなか大変。

高山は以前からウェブなどで経歴と作品を公開することを主張し実践していた。国立私立を問わず公金が投下されている以上、学者が成果を出すのは当たり前であるが(文科省や大学は学者にそれが可能な状態を用意すべき。カネも大事だが、時間はもっと大事)、それは読まれねば意味がない。かつてある研究会に出席すると「自分の作品はなるべく読まれたくない」と仰っていた御仁がいて、おどろいた。そんなもん書くなよ…。かかれたものは、学者の共同体で読まれ、そこで批判され、よいものは残り、だめなものは忘却される。

さて経歴だが、自前のHPをもたなくとも、ReaDを使えば簡単に記入できる。近年は個人情報の関連なのか何なのか知らないが、経歴に生年を書いていない方がある。歴史家としては非常に気になるんだがね。学者にとって、いつどこで生まれ、どのような教育を受け、どのような作品を出してきたのか、とても大事な情報なんだけど。

なお、本書の表紙は、デンマークのイラストレーター、カイ・ニルセン(1886-1957)による『千一夜』から。ニルセンはコペンハーゲンで生まれ、のちアメリカにわたった。ディズニーとの仕事で有名だが、人魚姫に固執したのは、デンマーク出身ゆえか。

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